雨谷の庵

[0456] にょきにょきと伸びて (2004/11/07)


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しかし我ながらすっかりのご無沙汰である。

出産の混乱を経て育児を開始してからというもの、昼は仕事、夜は育児(と若干の家事)に
追われる日々で、自分だけの趣味の時間と世間で呼ばれているものがほとんど取れない
状況になってしまっていたのである。
何か書いてないと指先がぷるぷると震えてしまう病気の私が、これだけの期間、ほとんど
文章を書きもせずにサイトを放置していたことはかつて無いので、実に育児恐るべしとか
そういう結論をつけねばならないであろう。
世の父ちゃん母ちゃんはすべからくこの重労働を黙々とこなしているのであるのだなぁと
つらつらと考えてみるに、実は人々というのは何気に凄いことを脈々と積み重ねることに
よって、日常という何気ないものを保ち続けているのかもしれないのだという少々感傷的な
感覚を覚えないでもない。父母に感謝せよ餓鬼ども。

ところでこの育児であるが、それは忍者の修行に通ずるものがあるような気がしてならない。
例えば、言い伝えによると忍者は跳躍力を鍛えるために、麻を毎日飛び越えるのだと言う。
麻は成長が早い。
忍者が自分自身の手で植え育てる麻は、日々ぐんぐんと丈を伸ばしていくのである。
その上を飛び越えるという事は、忍者もまた麻と同じくらいの勢いで跳躍力を成長させねば
ならないというわけである。
嘘か真か、それは判然とするべくもないヨタ話の類なのかも知れないが、ともかく忍者は
麻修行の絶大なる効果でもって、常人よりも並外れた跳躍力を見る見るの内に手に入れる
ことにあいなるという寸法なのである。忍者に驚愕せよ餓鬼ども。

育児もまた然りではないだろうか。
例えば、乳児は日々ミルクを飲み、そしてミルクは日々血となり肉となるのである。
糞にもなるが。それはともかく。
つまり、乳児というものは日夜を問わずどんどんと重くなりにょきにょきと伸びて
ゆくものなのである。
そしてその性質ゆえに、私たちにとって息子の人は、忍者にとっての麻の役割を果たすと
良い得るのではないだろうか。
では、乳児によって我々は何が鍛えられるのであろうか。
忍者にとっての跳躍力、それは恐らく腕力であろう。
貴方がたは今までの人生のあちらこちらで、母親と呼ばれる存在の持つ逞しき二の腕を
目の当たりにしたことがあるであろう。
すなわち、その二の腕こそが忍者の脚であり、乳児を抱きかかえてがっしりと放さない
その腕力こそが忍者の跳躍力であると、ここに私は強く主張する者なのである。
忍者は麻を育て跳躍力を得、父母は乳児を育てて腕力を得るのである。

ここまでに書いた通り、つまり乳児とは育てられるばかりの存在では決してないのである。
その存在は父母というものをより強くし、人間としての様々な面をより頑健なものへと
鍛え上げてゆくのである。
母の優しさは乳児の我が侭によってますますの柔軟性を得るのであろうし、父の背中は
乳児を養うための費用ゆえに哀愁を増すのである。
そう、父母とは即ち忍者に他ならない。
自ら望んで自らを窮地に追い込むであろう存在、すなわち乳児を育てつつ、その窮地で
あるが故の修練を日々積み重ね、自身の更なる能力向上を図るのである。
嗚呼、悲しき存在なるかな忍者。自虐の存在なるかな父母。
世界は忍者と自虐によってその日常を維持し続けていると言っても過言ではないのか。
日常に感嘆せよ餓鬼ども。

さて以上の推論から、今の私の腕力は息子の人による忍者的システムを踏襲した修練の
実施結果により、飛躍的な向上を見せているはずなのである。
最初はおっかなびっくりで恐る恐る息子の人を抱き上げていた私も、今では無造作にかつ
軽快なる動作でもって、ひょいひょいと息子の人を抱え上げることができるように
なった……はずである。
しかし、どうも様子がおかしい。そう気づいたのは、先月のことであった。
「最近、肩こりが禿げしくなったにょー」
常々このように愚痴るのは妻の人である。
毎日毎日息子の人を持ち上げ続けた結果、彼女もまた忍者的に腕力向上現象を体現して
いるはずなのであるが、どうもそういう結論には至りそうにないのである。
そして私もその頃、息子の人の抱き心地の重量感に疑問を持ち始めていた。
まず手首が痛い。そして腕の疲れが慢性化してきている。
これは一体どういうことなのか。忍者に例外有りとかそういうことなのか。
もしや、私は忍者失格とかそういうことで、下忍試験にもエントリーすらさせてもらえない
落ちこぼれであったのか。

しかしそれは単に私の思い違いであったらしい。
なぜなら先日、定期検診で驚くべき事実が判明したからである。
「徳田さんのお子様、ちょっと太り過ぎですね」
なんと息子の人の体重は現在8kgを超えていた。
同じ月齢の乳児の平均的な体重は7kg前後であるから、実に1kgも重い計算になる。
つまり、私たちの忍者特性が低いわけではなかったのである。麻の成長が並外れていたのだ。
でぶっちょでぶっちょ。

ということで、現在息子の人はダイエット中である。
生後3ヶ月ちょっと、初めてのダイエットとかそういうわけだ。
初手から難儀な人生だなオイ。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓