雨谷の庵

[0452] 妻の人がお勧めする理由 (2004/10/10)


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歯医者に通うようになってから、パンツを忘れるようになってしまった。

実は長年、私は虫歯を放置していた。
虫歯といってもそれほど酷かったわけでは無いし、そもそも仕事などの都合上、歯医者に通う
時間を取るのが難しかったということもある。
まああとは、故郷を遠く離れた慣れない土地で、どこに歯医者があるのか全く分からなかったと
いうのも心理的にはちょっとした理由になるんじゃないだろうか。
ようするに、面倒だったから行かなかったのだ。この夏が来るまでは。

そう。私が歯医者に通う決意をしたのは、この夏の盛りの頃だった。
記録的記録的と毎日のようにマスメディアが連呼するほどに暑い夏、私は虫歯の痛みをとうとう
我慢できなくなったのだ。
痛みが出始めたのは7月頃。
その頃は妻の人が出産などでバタバタしていたし、その後は育児でバタバタしていたので、
虫歯が痛いとはなんとなく感じながらも放置を続行していたのである。
しかし、その痛みは8月に入ってからとんでもないことになった。
仕事が手につかないくらいの痛みと言えば、お分かり頂けるのだろうか。
とにかく神経を直撃したような痛みが昼も夜も常にずきずきとあごの辺りをきしませるのである。
そのうち治まると良いななどと、あり得ない希望的観測を維持しつつ、痛みに耐える毎日を
送ってみたりもしていたのであるが、そもそもその耐えること自体が間違いであることは
言うまでも無い。
お盆を過ぎた頃、私はとうとう虫歯であるという事実を妻の人に告白した。
そのときの妻の人の顔が忘れられない。なぜ、そんなに嬉しそうなのか。

「ポヨヨンがあるよ。ポヨヨンが」
妻の人は、私に一つの歯科医院を勧めてくれた。
それは妻の人が子供の頃から通っている歯科医院で、私の今の自宅からもそう遠くなく、交通の
便も良い立地にあった。
土曜日も営業しているので、私としても通うのに都合が良さそうである。
しかし、妻の人がお勧めする理由、それはそんな単純なものではなかったのである。
「ポヨヨンとはなんですか?」
私は妻の人の発する謎の単語について的確なる質問を投げかけた。
しかし妻の人は相変わらずにやにやしながら「行けばわかるって」と誤魔化すのであった。

ともあれ、ポヨヨンだろうがプニョニョンであろうがプリンティンであろうがこの際であるから
どうでも良い。
歯科医院と言うからには虫歯を治してくれるのだろう。
ぶっちゃけ虫歯さえ治れば、私にとってはなんだって良いのだ。
暑い日差しの中、私は妻の人の描いてくれた地図を手にその歯科医院に向かった。
駅前の古いビル、その階段をてくてくと上り詰めると、そこが目的の場所だった。
『当医院では清潔に細心の注意を払っています』
まず私の目に飛び込んできたのは、そんな標語の書かれた貼り紙だった。
いや、それだけではない。
よくよく見渡すと、医院の中の壁には様々な貼り紙がしてあるではないか。
『当医院はなるべく歯を削らない治療を心がけています』
『インフォームドコンセントを重視しています』
『虫歯は患者の皆様との共同作業で治療を行うものです』
やけに説教臭い医院である。
しかしまあ、方針の程は了解した。
どうやら、良心的に治療を行うということのようだから、それは私の望むところでもある。

受付を済ませ、私はしばらくの待ち時間の後、治療台の方に導かれた。
ヒゲのおっさんがニコニコしながら出迎えてくれる。担当医だろうか。
その後は特に何ということもなく、つつがなく診察が進む。
結論としてはこうだ。私の歯は虫歯だらけだったのである。
最後に歯科医院の診療を受けてから約5年、その間に口の中はボロボロと言い得るほどに
悪化した状況となっていたようである。
今回、私を苦しめている虫歯の痛みは、その中でも最も悪化した1本によるものだったようである。
「徳田さん、この際だから、全部治しちゃいませんか?」
医師の勧めに、私は異論を唱えることも出来ない。更に医師は言葉を続ける。
「徳田さん。うちでは歯石の除去などもやってるんですが、そちらもどうですか?」
それほど費用も掛からないとの事だったので、私はそれもお願いすることにした。

そして、私の歯医者通いが始まったわけである。
私の虫歯は根にまで入り込んでいたらしく、神経の除去のための処置などもあって、治療が終わる
までには何度も足を運ばねばならなかった。
一回の治療は30分から1時間。日頃育児に疲れ気味の私は、治療台の上で熟睡する日々である。
熟睡してしまった私はすぐに口を閉じてしまうらしく、起きたら開口器で口を固定されて
いたこともあった。ていうか寝るなよ危ないから。
そしてその合間には、歯石の除去もしなければならない。
歯石の除去は美人の衛生士さんが行ってくれた。
ていうか、こ歯科医院、衛生士さんが美人ばっかりだな。院長でてこいっ。
実は妻の人が言っていた『ポヨヨン』とは、この歯石の除去の際に美人衛生士さんの胸が額やら
頬やらにポヨヨンと触れることであったらしい。
「どきっ!美人揃いの衛生士とヒゲのエロ院長!ポヨヨンもあるよっ!」
とかそういうことだったようである。
しかし私は歯石の除去の最中も熟睡だったので、ポヨヨンの感触は結局知らずに育ってしまった。
無念である。最初に教えておいて欲しかった。>妻の人

ということで、今月になってようやく治療の大半は終わったのであった。
その歯科医院では定期検診も行っているらしく、私は半年に一度、歯石の状況や虫歯の有無などを
確認してもらうことにしている。
一度除去した歯石だが、油断するとまた溜まってくるので、今は歯磨きを厳重に行うように
心がけている。
で、そのせいなのだ。
私は夜、お風呂上りに歯を磨くことにしているのであるが、その時にパンツを履き替える。
今までは歯磨きがおざなりだったために、脱いだ方のパンツのことをしっかりと覚えていたので
あるが、今はあまりにも丁寧に磨いているせいか、どうやらその脱いだパンツのことが頭から
すっぽりと抜けてしまうようなのである。

お風呂上りに私のパンツを見かけたら、それは歯磨きのせいなのだ。
だからもう怒るのは止めてくれませんか妻の人。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓