雨谷の庵

[0439] プライスレス (2004/06/12)


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もし貴方がPCのゲーム、いわゆるビジュアルノベルというものを作ろうと思ったら、
どれだけの経費がかかるかをご存知だろうか。

ゲームを作るにはまず、企画を練らなければならない。
企画で必要となる最初の要素は、売りとなるコンセプトである。
何をもってお客様の娯楽的欲求に応えるのか。それはお笑いでも良いし、お涙頂戴でも良い。
もちろん、グラフィックスの美麗さや音楽のクリアさを主眼に置くのも構わない。
無難なところで、エロのみを追求するのでも良い。
とにかく作ろうとしているものに関する様々な物事に、自分なりの優先順位を付けていく、
それが企画すると言うことだと思えば良い。
この企画、これには実は値段がつかない。
2年も3年もの長い年月をかけて、コツコツと何かを練り上げる人もいれば、お酒を飲みながら
友人と馬鹿話をしながら、アイデアを組み立てていく人もいる。
基本的に、企画は自分自身で仕上げるのが良いだろう。それをしなければ既に、それは
貴方のゲームではなくなってしまう。
もしも貴方がお金持ちで、誰かの企画を買い取るということができるとしても、その買い取った
企画の発案者には、ゲームの作成チームに参画してもらうことになるだろう。
もしそうしなければ、その企画は発案者の思い描いたのとは別のものになってしまうだろう。
ただ、その発案者の原案に着想を得て、それを発展させる形で作るのなら、別にそこに
こだわりを持つ必要は無いが。

ともかく、3ヶ月かけて貴方の企画が出来たとしよう。
ここまでに掛かった経費は貴方の生活費のみである。
家賃は1ヶ月に5万円、食費と光熱費をコミで5万円とすると、最低でも月に10万円は
掛かるとして、既に30万円を使ってしまった計算になる。

さて、企画が出来たら、次はキャラクターデザインとシナリオ、システムの仕事を始めなければ
ならない。
これらは特殊技能を必要とされるものなので、それぞれ才能のある人に依頼するのが良いだろう。
キャラクターデザインには絵心のある人物を、シナリオには舞台設定と物語を文章に書き
起こすことのできる人物を、システムにはコンピュータの知識を持ちプログラムの出来る人物を
割り当てることになる。
もしも、貴方がこれらの2つ以上に長けた人物に巡り合うことが出来たなら、貴方は稀なる
幸運の持ち主ということになる。経費の節減が出来るかもしれない。
しかしたいていの場合、天は二物以上を与えることに臆病だ。そんな幸運を期待するべきではない。
この段階でも、貴方には重要な仕事がある。それは調整役である。
キャラクターデザインとシナリオは、相互に影響し合う。
シナリオが書き進めば、新しい登場人物が必要になるかも知れない。
また、キャラクターの外見や性格が固まって来るに連れて、シナリオライターは素晴らしい結末を
思いつくこともあるだろう。
これらをほったらかしにしてはいけない。当初の企画の趣旨に従い、貴方がそれらの変化を
適宜に切り分けていく必要がある。
また、システムの問題は深刻だ。
たいていのプログラマは最初、何を書けばいいのかについて全くの無知である。
更に、彼らはコンピュータの良き友人だが、人間に対して友好的とは限らない。
貴方にはキャラクターデザインやシナリオから求められる人間的な要求を、そのコンピュータ的な
人物に対し、辛抱強く説明するという仕事が待ち構えているだろう。
キャラクターデザインには1ヶ月、シナリオには2ヶ月、システムには3ヶ月くらいが
掛かったとしよう。
ただこれらを他人に依頼したとすると、それには営業的な料金が設定されることになる。
かなり安い場合なら、貴方はキャラクターデザインを30万円で、シナリオを50万円で手に
入れることが出来るだろう。
プログラマには慣例的に、掛かった月の数に料金を払うことになっている。月に15万円とすれば、
あなたはシステムを45万円で手に入れるだろう。
そして、その間の貴方の生活費のことも忘れてはいけない。ただ、それはあとで計算しよう。

次はキャラクターデザインが終わったら、シナリオと並行して原画の作業を進めなければならない。
舞台となる場所の風景や、キャラクターの立ち絵、イベント絵、あとはゲームの操作のための
アイコンや場面転換の時のアイキャッチ、果てはウィンドウの枠に至るまで、1つ1つデザイン
しなければならない。
これらの作業はキャラクターデザインをお願いした人物に、引き続いて依頼するのが良いだろう。
この作業に、だいたい2ヶ月はかかるだろう。
その間、その人物に料金を支払う必要がある。これで60万円だ。
原画の作業がある程度まで進んだら、それをCGに仕上げる作業に入らなければならない。
これは、原画の技術とはまた別の技術が必要となる。
もしも原画をお願いした人がCGにも長けていれば、それは幸運と言う他無い。
しかし何度も書くようだが、そんな幸運を望むのは間違っている。
原画作業とCG作業を並行することで期間を短縮することもできるのだから、貴方の生活費の
ことも視野に入れれば、CGは別の人に頼むのが無難だろう。
ゲームのシナリオの分量にも依るが、個人で企画したゲームの場合、CGの枚数は100枚
程度と考えておけば良い。全ての種類のCGを全てカウントすると、大体それくらいになる。
ここからは枚数と時間との勝負になる。
原画をコンピュータに取り込み、それを線画にし、整える(半日)。
線画をベースとなる色で塗り分け、それから本塗りに入る(1日)。
塗り上がったCGにエフェクトを加え、全体の色調を整理する(半日)。
つまり1枚の原画をCGに加工するまでには、だいたい2日を見ておく必要があるということだ。
もちろん、イベント絵などの気合の必要なCGには5日かかることもあるだろうし、アイコンの
ような小物なら1日も掛からないこともあるだろう。
だが平均では2日くらいを見込んでおく方が良い。
よって、100枚のCGが出来上がるには200日、つまり約10ヶ月がかかる計算になる。
これは膨大な時間である。だからたいていの場合、CGは複数人で作業を進めることになる。
いずれにせよ、CGを担当して貰った人物には月ごとに最低15万円ほどのお金を
払う必要がある。合計すると、150万円となる。

さて、CGに取り掛かり始めた頃にはシナリオが出来上がっているだろう。
この頃から、音楽に取り掛かることになる。
実のところ、音楽の作業はもっと早くに始めても良い。シナリオが出来てから、そのイメージに
沿った音楽を作って貰うという方法と、音楽からシナリオを起こすという方法のどちらでも
構わないからだ。
ただ、この時点より後となると少々問題があるだろう。
音楽の才能は特殊だ。また、音楽を録音するには特殊な場所(スタジオ)と特殊な機材を
必要とする。これらを始めから全部自分で揃えるのは正直、止めた方が良い。
音楽は音楽職人に依頼するのが安上がりだと言える。
音楽に掛かる費用は、作曲によるものと演奏によるものの二系統に分類される。
しかしたいていの場合、それらはセット料金になっている。
依頼する曲数にも依るがだいたい期間は1ヶ月、安ければ30万円で仕上げてくれるだろう。

そうこうしているうちに、システムが出来上がってくる。
次にやらなければならない仕事は、スクリプティングだ。
これはシナリオを元に、システムがそれを画面に表示するためのコマンドを埋め込んでいく
作業になる。CGの表示のコントロール、音楽との同期、特殊効果などによる演出、物語を
分岐させるためのフラグの制御など、様々な要素をゲームらしく作りこんでいく、製作過程の
中で最もゲームらしい部分とも言えるだろう。
この作業は、全ての要素を統合する作業でもあるので、他の作業に遅れがあれば、その分
後ろへずれ込んでいくことになる。
この作業に適した人物というのは恐らくシステムを作ったプログラマだが、もしも自身の手で
仕上げることが可能ならば、自身で行うのが良いだろう。
この作業には、だいたい2ヶ月を見込んでおこう。経費は貴方の生活費である。

さあ、CGも出来上がる頃には、貴方のスクリプティングも終わっているだろう。
これらが終わったら、動作確認をしなければならない。
全ての物語の分岐を試し、こまかな演出を加えていく作業になる。
これには半月くらいの時間がかかる。
そうした仕上げの作業も全て終わったら、その成果をCDに焼き、プレス屋に依頼に
出すことになる。
プレスに掛かる費用はマスタリングに8万円、プレス100枚あたり2万円を見込んでおこう。
100枚プレスするなら10万円、1000枚なら28万円となる。
プレスに出して更に半月、ようやく貴方の手元にゲームが製品となって届くことになる。

さて、ここまでの経費を合計しよう。
ちなみに企画が終わってから出来上がりまでの期間は、全てがスムーズに進んだとすると
6ヶ月となる。
つまり、貴方の生活費として更に60万円が必要となるわけだ。

 貴方の生活費:(企画)30万円+(製作)60万円
 シナリオ:50万円
 キャラクターデザイン:30万円
 原画:60万円
 CG:150万円
 音楽:30万円
 システム:45万円
 プレス(1000枚):28万円
 -------------------------------------------------
 計:583万円

もしも商業ベースと同じだけの数を売りたいのなら、枚数を3000枚〜6000枚くらいに
する必要がある。(+40〜100万円)
更に、プロモーションのための費用と営業経費も要るだろう。
さて、これを売った場合、どうなるだろうか。
1000枚だと、1枚当たりのコストは5830円である。
3000枚なら2077円、6000枚なら1138円となる。
ただまあ、3000枚以上もの数をさばこうと思うなら、相当のプロモーション費用が掛かるので
それは別途と考えなければならないが。
ちなみに一般的なビジュアルノベルの定価は8800円、卸価格は5000円強という計算になる。
1000枚では、明らかに赤字なのだ。最低でも2000枚はプレスしないと、商業ベースでは
やっていけない。

それでも貴方は、ゲームを作ってみたいと思うだろうか。
ここで取り上げたビジュアルノベルは、ある意味お金の掛からない分類のものになる。
もしもMMOなどのネットゲームや、コンシューマレベルのRPG、アーケード並の格闘モノなどを
作ろうと思えば、それは一生のうちのかなりの年数を掛けた仕事になってしまうだろう。
趣味としてゲーム製作を捉えた場合、現在市場で求められている水準は、少々手に余るものなのだ。
しかしそれでもなお、ゲームを作りたいと思う人を、私は止めようとは思わない。
私自身がゲーム作りに没頭していた、2年前のあの頃を思い起こすたびにそう思う。
プライスレス。
それは、貴方にとっての貴重な何かとなるだろう。

もちろんこれが、同人誌販売業者から返品されてきた数百枚もの売れ残り在庫を目の前にした私の、
苦し紛れの言い訳などではないことを、まず最初にお断りしておきたいと思う。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓