雨谷の庵

[0412] ジャンク乗りとしての覚悟 (2004/02/14)
※一語100%


[Home]
 アルター8、その星では開拓民のすべてが屑鉄にゆだねられていた。

 憧れのマツダ先輩にもうすぐ会える。エリの胸は希望に踊っていた。
 開拓移民の星の一つアルター8。
 過酷な環境と敵性機械生命体『グール』に支配されたこの星の港に、エリが到着したのは、夜も更けてからだった。エリと同じように開拓移民の二次募集でこの星にやってきた人々が、思い思いに街角へ足を向けている。
 アルター8最大の都市、プロメキア3。整然としたその街並みも、街全体を堅固に覆う天蓋も、それらの全てがエリには目新しく好ましいものに思えていた。
「そうだ、先輩に連絡しなきゃ」
 マツダ先輩はエリの学生時代の先輩であり、アルター8の第一次移民でもあった。惑星開拓の初期、まだこの星に敵性生命体が溢れ返っていた頃、パイロット候補生だった先輩が自ら志願してこの星に旅立ってから二年が経っている。
「先輩、驚くだろうな」
 エリは、移民に配布される連絡用端末を手に取った。

「始めの頃は企業に雇ってもらうと良いよ」
 昔とまったく変わらない、マツダ先輩の声は柔らかかった。
「色々な仕事を請け負ってあちこち飛び回ってれば、この星に慣れるのもすぐさ」
「あ、あの。先輩は今、どんなことをやっているんですか?」
「僕は、そうだなぁ……街の護衛のようなことをやってることが多いかな」
「護衛ですか」
「うん。ウェスタンオアシスという砂漠の街でね。プロメキア3からだと、ちょっと遠いかな」
 エリは少し残念に思った。この星に来ればすぐにでも先輩と一緒に仕事が出来る、そう思っていたからだ。
「大丈夫だよ。エリちゃんなら、すぐに一人前になれるさ」
 先輩は明るく励ましてくれたが、それが気休めだということは分かっていた。憧れの先輩に一歩でも近づくためには、頑張らなければいけない。
 エリはそう心に誓うのだった。

 翌日、エリは真っ先に企業の受付に足を運んだ。
 先輩に教えてもらった通り、企業に雇ってもらうためだ。
 アルター8には、政府から委任されて開拓を推進している二つの企業が門を構えている。
 『POF』と『無限大公社』、これらの企業は開拓委託業者であると同時に、元々はジャンクの開発企業でもあった。アルター8に生息する機械生命体『グール』は、これらの企業にとって非常に興味深い研究対象だったからだ。表向きは開拓に協力し合っている二社だったが、裏ではグールを対象とした研究開発で熾烈な争いを繰り広げているという噂もあった。
 エリは、POFに雇ってもらうことにした。学生時代、授業で習ったロボット教習で使っていたのがPOFの訓練機だったからだ。POFのリリースするジャンクは汎用性重視で素直なものが多かったのに対し、無限大公社のそれは、扱いに一癖も二癖もあるプロフェッショナル仕様のものがほとんどだったというイメージがある。
 まずはジャンクの扱いに慣れなければならないエリにとって、POFの方がより良い選択肢に思えたのだった。

 次にエリが向かったのは、移民局だった。そこで、ジャンクの支給を受けることができる。
 汎用有人ロボット、通称『ジャンク』。
 敵性機械生命体が多数存在するこのアルター8では、開拓民にとって必須の道具だった。
「最初は無料支給しますが、あとは自分で好きに使って頂いて構いません」
 アルター8にはジャンクをカスタマイズするための様々なパーツが売られており、開拓民はそれらを自由に組み合わせて、自分だけのジャンクを組み上げることができる。
 エリは、4つの脚を持つジャンクを受け取った。それは後方支援タイプの機体だった。
「いいんですか?最初は戦闘用の通常タイプか、運送用の逆関節タイプがお勧めなんですが」
「私、戦闘はあまり好きじゃないし。方向音痴だから、運送用っていうもちょっと」
 支給されたジャンクはすぐに街のガレージに配備される。ガレージには他の人々の、思い思いのジャンクがずらりと並んでいた。
「さてと。色は、どんなのにしようかな」
 エリはスプレー缶を握り締めて、自分のものになったばかりの愛機を見上げた。しばらく首を傾げたあと、エリは思い切ってスプレー缶のスイッチを入れた。
 見る見るうちに、エリのジャンクは鮮やかな空色に塗り上がった。

 プロメキア3の北西に広がるヴァストネス草原は、比較的安全な地域だ。
 エリはジャンクの慣らしの意味も込めて、草原へのゲートをくぐった。
 晴れ渡った薄水色の空を、風が無表情に吹き抜ける。
 護身用の無料支給のマシンガンを片手に、エリはおそるおそる草原に足を踏み入れた。重い金属音を無骨に響かせながら、ジャンクがゆっくりと草原を進んでいく。
「だいたい、習った通りみたい」
 前進、後進。左右移動に旋回。基本的な操作は授業で習ったのと全く同じで、すぐに思い出すことができた。
「マシンガンの発射は……これかな?」
 エリは試しにマシンガンの銃口を空に向け、引き金を引いてみた。意外に軽い発砲音が短い間隔で連続し、その後、硝煙の独特の臭いが操縦席に入り込んできた。
「やっぱり、実弾なんだ」
 授業でも射撃訓練は受けたが、実弾を撃ったのはこれが初めてだ。どことなく、操縦桿に伝わってくる振動の重みが違う。
 戦闘が好きではないとは言っても、自分の身は自分で守らなければ開拓民としては半人前だ。
 実弾の重みは、どことなくそんなことをエリに教えているようだった。

 街を背中にしばらく歩いた頃だっただろうか。
 エリの前方に、別のジャンクの姿が見えてきた。
 黒いカラーリングに4脚タイプのやや大きめな機体。『所属不明』という文字が、正面の操作画面に表示される。
 黒いジャンクは、岩陰に隠れるようにしてじっとたたずんでいた。
 何をしているのだろう。エリは遠くを迂回するようにしながら、様子を伺った。
 とそのとき、エリの斜め前方で不自然な土煙が立ち昇った。不安を誘う暗い金属音を耳障りに振り撒きながら、土煙の中から見慣れないモノが飛び出す。
 グールだ。
 鋭い牙状の突起を上下で軋ませながら、機械の駆動する甲高い音がエリのジャンクに目を向けた。
 襲われる。エリは咄嗟にそれを感じ取ったが、エリの操縦桿は怯え切ったかのように動かなかった。マシンガンを構える暇もなく、グールの叫び声がエリに迫った。
 今にもグールの牙がエリのジャンクを噛み砕こうかという瞬間、別の駆動音がそれを振り払った。
 先ほどの、黒いジャンクだった。
 黒いジャンクの振り下ろした鋼鉄のハンマーが、グールを一撃で叩き潰したのだ。
 動かなくなったグールから、気味の悪い赤い火花と胸焼けのする焦げたような匂いが立ち昇る。黒いジャンクはそのグールの死骸に無造作に手を突っ込むと、そこから見慣れない部品のようなものを引きずり出していた。
「あ、あの」
 エリはようやく、我に返った。
「ありがとうございました。た、助かりました」
「助けたつもりはない」
 冷たい声が、低くエリを一喝した。
「ここは俺の狩場だ。死にたくなければ失せろ」
 そして、黒いジャンクはその場を立ち去った。

 その日の夜も、エリはマツダ先輩に電話をした。
 グールに襲われたことを話すと、「エリちゃんにグール狩りはまだ早いかもね」と笑われた。
「まずは簡単な仕事から、一つ一つ順番にやってごらん」
 先輩のアドバイスが、エリには嬉しかった。
 まずは地道に仕事をしよう。そしてお金を貯めて、先輩に会いに行こう。

 次の日、エリはエボス山脈の谷間にジャンクを乗り入れた。
 企業の窓口で、プロメキア2への配達業務を請け負ったのだ。プロメキア2へは、このエボス山脈を抜けるのが早い。切り立った崖の合間を縫うように、エリのジャンクが山道を越えてゆく。
 暗い山道に目を凝らしながら進んでいると、前方から見たことのあるジャンクが近づいてきた。
 それは、昨日の黒いジャンクだった。
 機体を損傷しているのだろうか、黒いジャンクの胴体からは鈍い煙が幾筋も立ち昇っていた。狭い山道でお互いを迂回しつつ、黒いジャンクとエリはすれ違った。
「グールに襲われたのかしら」
 しかしそれにしては少し様子がおかしいようにも思えた。黒いジャンクの破損箇所、あれはジャンクの射撃によるものではなかったか。
 それに思い至ったとき、操縦桿を握るエリの手のひらが急に、緊張で汗ばんだ。
 不意に、エリの足元の岩が火花を上げた。同時に、金属と岩石とが互いを削りあう、骨に響く嫌な音が谷間に響き渡る。
 エリは咄嗟に周囲を見回した。
 続けて、今度はエリのジャンクの肩部を、火線が掠めた。
 間違いない。誰かがどこからか、エリを狙撃している。
 装甲の表面の焦げた臭いを横目にしながら、エリは自分に銃口が向けられているということを自覚した。
 遠くの崖の上で、小さな光が再びエリに向けられた。避ける間もなく、エリの機体の脚部を重い衝撃が貫いた。
 コックピットに、脚部の破損を伝える警告音が鳴り響く。
 逃げなければ。
 エリは敵の射線から逃れるべく、近くの岩陰に向かって操縦桿を倒した。しかし、破損した脚部は重く、思ったようにはジャンクが動かない。
 その様子を察したのか、前方の別の岩陰から、一機のジャンクが悠然と姿を現した。機体識別の表示に『無限大公社』の文字が、警告とともに映し出される。
 敵対企業を狙ったジャンク狩り。
 苦し紛れにエリの放ったマシンガンは岩壁を空しく叩き、敵機の銃弾は何度も無慈悲にエリのジャンクを叩きのめした。
 為すすべもなく、エリのジャンクは文字通りの屑鉄と化した。

「これはまた、えらく酷い目にあったもんですな」
 街のガレージに搬送されたエリのジャンクを見上げながら、修理工がその傷だらけの様を溜息混じりに嘆いた。
 移民したばかりの開拓民は、しばらくの期間だけ、ジャンクを無料で修理してもらえる。今はその期間中だからすぐに直してもらえるとのことだったが、いずれはそれも有料になる。
「この先、やっていけるのかな……」
 エリは、何もできずに撃墜されてしまった自分を情けなく思っていた。
 この先、また襲われることもあるだろう。せっかく仕事でお金を得ても、ジャンクの修理代でそれは帳消しになりかねない。
 こんなことでは、いつまで経っても先輩には会えないだろう。
「私、開拓民には向いてないのかも知れない」
「そうかも知れんな」
 いつの間にか、エリの隣で見知らぬ男がエリのジャンクを見上げていた。
「弾薬がほとんど消費されずに残っている。反撃もせずに逃げ帰ったということか」
 どこかで聞き覚えのある冷たい響き。
 心当たりを手がかりに周囲を見回すと、エリのジャンクの隣のガレージに、例の黒いジャンクが格納されていた。
「あなたに言われたくないわ」
 エリは不機嫌にそう言った。
「あなただって逃げ帰ってたんじゃない」
「あれは戦術的転進に過ぎない」
 男の言葉に、しかし何故か言い訳がましい響きは無かった。
「レーダーに敵影は二体。うち、崖上の敵機はライフル武装が予想された」
 男は腕組みをしたまま、エリを頭上から見下ろしていた。
「こちらの主武装はハンマーだった。速やかな転進による戦術的状況転換が最も適切だ」
「何それ、訳分かんない。それに、知ってたんなら教えてくれても良かったんじゃない」
「君の武装はマシンガンだった。その場合、一方的な転進は最善ではない」
 エリは溜息をついた。
「じゃあさ、貴方と私の二人で行けば、あいつらやっつけられるって、そういうこと?」
「愚問だ。君が適切な行動を行いさえすれば、撃破は比較的容易な作業に過ぎない」
「呆れた。言っておきますけど、私はまだここに来たばかりの素人ですからね」
「素人かどうかは関係ない。必要なのは適切な作戦と能力に見合った努力、そして勝利への信念だ」
 男の眼差しはあくまで真っ直ぐで、そこに何ら打算的なものは存在しなかった。
 エリはしばらく考え込んだ後、男に向き直った。
「もし私があなたと一緒に戦いたいって言えば、あなたはどうするの?」
「俺もあそこを通り抜けたい。障害を排除するための手段は何であろう、これを歓迎する」
 エリはにっこりと余所行きの笑顔を男に向けると、その右手を差し出した。
「じゃあ、共同戦線ね。私はエリ。あなたは?」
 男は迷い無く、エリの差し出した右手を握った。
「フカツだ。君にはこれから、俺の指揮下に入ってもらう」

 再び、エリはエボスへのゲートをくぐった。目前を、フカツの黒いジャンクが先行する。
「レーダーの情報を転送する。敵機は移動しているかも知れない。周辺警戒を怠るな」
 フカツのジャンクから送られたレーダー情報が、エリの操縦席にパネルに映し出される。先ほどの谷間の奥に、確かに二つの敵影が映し出されている。
 谷間に続く入り口で、エリとフカツはジャンクを停止させた。
「君の目撃情報から、崖下の敵機は小型通常タイプのハンドガンナーだと思われる」
 フカツは武器の状態をチェックしながら続けた。
「攻撃力が高く機動性に優れるが、射程が短く脆い。まずはそちらを排除する」
「私が岩壁沿いに接近して、誘い出せば良いのね」
 エリはレーダーでもう一機の位置を確認しながら、狙撃を受けない位置取りを選んでジャンクを前進させた。既にあちらもこちらの位置は把握しているはずだ。睨み合いの状態のまま、レーダー上でエリと敵との距離が徐々に縮まっていく。
 と、エリの前方の岩で、ライフルのそれと思われる銃弾が弾けた。
 それが合図だったのか、その岩陰から先ほどの敵機が飛び出してくる。
「崖下の敵機よりも、君の射程の方が長い」
 状況の変化を察して、フカツ機からエリに指示が飛ぶ。
「落ち着いて距離を取り、弾幕を張りつつ後退しろ」
「分かってる」
 狙撃手から死角になるコースを丹念に後戻りしながら、エリのマシンガンが敵機の足元を狙う。先ほどは一瞬で距離を詰められてしまったが、今度は弾幕のお陰で敵も容易には近づけない。じりじりと差を詰められながらも、エリは谷間の入り口にまで後退した。
 そこは、ライフルの届かない場所だった。
「よし、射撃を止めて崖の後ろへ迂回しろ」
 同時に、崖の脇からフカツの狙い済ました一撃が敵機めがけて振り下ろされた。
 慌てた敵のハンドガンがエリに向かって撃ち込まれたが、それは岩壁に弾かれるだけだった。
「これで一機」
 敵ジャンクの爆発音を、フカツの冷静な言葉が見下ろした。

「君のマシンガンの射程範囲ぎりぎりまで近づく」
 敵機の沈黙を見届けた後、今度はフカツが先行し、エリがそれに続く形で岩陰を前進した。
「そこから先は俺だけで突破する」
「私は崖上の敵機に向かって援護射撃すれば良いのね」
 フカツがうなずくのと同時に、エリは敵機に照準を合わせた。
 エリの射撃が崖の上の敵機めがけて放物線を描く。それに応戦する敵機の狙撃が、エリのジャンクの周囲の岩肌で火花を散らす。
 当たらなくても良いからまずは敵の注意を逸らす、それが目的だった。
 フカツの機体は、エリの射線を潜り抜けるようにしてするすると崖の陰を伝ってゆく。
「よし。敵の背後に廻り込んだ。これより近接戦闘に入る」
 フカツの報告の直後、崖上で金属同士のぶつかり合う音が弾けた。
 続けて、小さな爆発音と真っ赤な火花が、谷間の空気を震わせる。
「フカツ、どうなったの?大丈夫?」
「大丈夫だ……だが、仕留め損なった」
 フカツの声はどこと無く弱々しかった。
「敵のレーダーは破壊した。武器にも打撃を与えたが、破壊し切ったかどうかは分からない」
「それは分かったから、そっちは大丈夫なの?」
「心配ない。脚部を損傷しただけだ。まだ戦える」
 そういうことを聞いているわけではないのに。エリは小さく溜息をついていた。
「レーダーを確認しろ。敵はそちらに向かっている可能性がある」
 確かにレーダーは、こちらに向かってくる何者かの存在を告げていた。
「敵は君の位置を把握していない。不意をつけば、君の武装で十分排除できる」
「分かったわ。やってみる」
 エリは岩陰に注意深く身を潜めると、用心深くマシンガンを構え直した。
 エリの心臓が一つ脈打つたびに、レーダー上の敵機との距離が縮んで行く。次第に、崖の両側にジャンクの重々しい歩行音が反響し、近づいてくるのが分かる。
 そして、エリのマシンガンが狙っている先、その銃口がちょうど狙っている地点に向かって、崖上から見慣れないジャンクが飛び降りてきた。
 大きなジャンクだった。全身を焦げた赤い色で染め上げ、手にはライフルを持っていた。
 エリが敵機を射程に捉えると同時に、機体識別センサーが敵機の所属とともに、パイロットの名前を操縦席の画面に映し出す。
「そんなっ!?どうして!?」
 そこに映し出されたのは「マツダ」という見慣れた名前だった。

 引き金を引くことも出来ずただ呆然と立ち尽くすエリに向かって、赤いジャンクはどことなく余裕を感じさせる足取りで近づいてきた。
「マツダ、先輩……?」
「エリちゃんだったのか。久しぶりだね」
 しかしそれは聞き返すまでもなく、先輩の声だった。
「マシンガンを降ろしてくれるかな?」
「は、はい」
「ありがとう。まさかエリちゃんがPOFに入っていたとは思わなかったよ」
 マツダ先輩の物腰は以前と変わりなく物柔らかで、エリの憧れそのままだった。
「プロメキア3に居ると言ってたから、迎えに来たんだ。無事に会えて良かった」
 学生の頃の思い出が甘い蜜のような感覚を蘇らせる。あの頃は遠くから見詰めるだけで幸せだった。
 でも今、先輩は目の前に居る。手を伸ばせばすぐに届く場所に。
 しかしそんな思いとは別に、エリの心のどこかに何か黒いものが引っかかっていた。
「先輩は、ここで私を待っていたのですか?」
「いや、本当はプロメキア3に向かいたかったんだけどね。邪魔が多くて足止めされてたのさ」
「それは、POFの?」
「そうだね。ここはPOFの支配地域だから。問答無用で戦闘になることが多いね」
「私を撃ったのもPOFだったから?」
「エリちゃんだとは知らなかったからね」
「……先輩」
 以前のエリなら、間違いなく先輩の腕の中に飛び込んでいただろう。だが、今のエリは学生の頃のエリとは違う。
「私、頑張りました。ロボットの操縦も覚えました。開拓民としての知識も学びました。ここに来てからまだ二日間しか経ってませんけど、それでもジャンク乗りとしての覚悟とか、危険に立ち向かう心がまえとか、色々なことを教わりました。少しでも先輩に近づきたくて。憧れの先輩だったから。そんな先輩と一緒に、色々な仕事をしたいと思ってました」
「エリちゃん……」
「私だって、頑張れたんです。だから先輩もきっと、頑張ったんだと思います。昔のままなんてことが、あるわけ……無いん……ですよね……」
「エリちゃん?」
 戸惑ったような声で聞き返すマツダ先輩に、エリはゆっくりとマシンガンの銃口を向けた。
「先輩。私、知っているんです。機体識別のときにパイロット名、出ますよね?」
 瞬間、マツダ先輩の機体から「ちっ」という舌打ちが漏れ出たような気がした。
 しかしそれは瞬く間のうちに、エリのマシンガンの音の中へと呑み込まれていった。

「知り合いだったのか?」
 その後、無事にプロメキア2に辿り着いたエリとフカツは、街の公園を並んで歩いていた。
「うん。ちょっと、ね」
 不審げな面持ちのフカツとは対照的に、エリの表情は呆れるほどに清々しげだった。
「ところでフカツ。あなた、これからどうするつもりなの?」
「俺か。俺はしばらくここを拠点にするつもりだ。知り合いがこの街に来ているらしい」
「そうなんだ。企業には入らないの?」
 その問いにフカツは無表情のまま「俺は一匹狼だからな」と答え、二人はそこで別れた。

 企業を辞めたエリがフカツに再会するのは、その二日後のベルギュダック山嶺でのことになる。
 しかしそれはまた、別の物語だろう。

----------
※このお話はオンラインロボットアクションゲーム『JUNKMETAL』の設定を題材にしています。
※お話はフィクションであり登場する人物、事件などは一切、事実と無関係です。

雨谷の庵は今日も雨。
< Back |List| Next >
管理者:徳田雨窓