雨谷の庵

[0392] 妻の人が喋っていた寝言 (2003/11/26)


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男根を権威の象徴と仮定するなら、ホモの人生は最もメタリックであるということを逆説を
交えながら世界平和と関連付けて解説するような内容をこれから書こうと画策していたのだが、
妻の人が寝言を喋り始めたので急遽予定を変更し、その記録保持に全力を傾けることにする。

「だから、三つで良いんだってば。四つ買わなくても三つで良いの。だめだめだめ。だから、
 三つ買えばおまけで一つ付いて来るんだから、四つになるって。そうじゃなくて、なんで
 わかんないのかなぁ。四つ要るのは分かってるけど、おまけで一つ付いて来るんだから、
 今買うのは三つだけで良いんだってば」

どうやら、夢の中で誰かと買い物をしているようだ。
三つ買うか、四つじゃなきゃダメなのか。難しいところだろう。

「シマウマのような人生はダメだって。そんなのほほんとしてたら、ニンジンかじるだけで
 終わっちゃうって。ときには積極的に果敢に生きなきゃだめでしょ。そう、ヒョウのように。
 分かってないなぁ。ヒョウは凄いよ?速いよ?びゅっと行くね。びゅっと。だからシマウマは
 ダメなんだってば。ニンジンだけで満足するなんてありえなくない?ニンジンだけってのは
 ダメだって。だいたいシマウマの縞は縦縞だから。横じゃなくて。そう、あれは縦なの。
 い〜や、あれは絶対縦縞だね。だっておかしいもん。しましまなんだよ?上がこっちだから、
 あれは縦で良いの。横じゃないね。い〜や、横はおかしい」

シマウマについて語り始めているようだ。
しかし、シマウマの縞が縦縞とは知らなかった。
頭と尾を結ぶ線を縦とすると、アレはそれに直交する方向に走っている模様だから、てっきり
横縞だとばかり思っていたが、私の勘違いだったようだ。
ちょっと気になったのでネットで検索してみたりもしたが、縦なのか横なのかをずばり解説
してくれているサイトは無さそうであった。
ていうか、とりあえず妻の人にはシマウマのしましまの方向に異様なこだわりがあるのだと
いうことが判明しただけでも良しとすべきところだろう。

「だから、三つだけ買っとけば良いの。四つ買うと損するでしょ?そんなシマウマみたいな
 人生はダメだって。ヒョウのようにびゅっと行かないと」

ああ、話題が繋がった。
どうやら三つはヒョウで四つだとシマウマなのだそうだ。
ところで、妻の人はシマウマが嫌いなのだろうか。可愛いのに。

「分かって無いなぁ。ライオンだよライオン。たてがみがかっこいいって。シマウマのたてがみ
 よりもライオンの方がかっこいいじゃない?シマウマのたてがみとライオンのたてがみは
 違うでしょ。シマウマのは一直線でしょぼいじゃない。ライオンのはいいね。たくさんあって
 いい。だから、シマウマみたいな生き方じゃだめなの。そりゃ、シマウマは脚速いけど、
 ライオンをなめちゃいけないね。初速が速いんだから。びゅっといくね。びゅっと。いや、
 そりゃ、逃げられることもあるけど、シマウマをびゅっと捕まえるじゃない?ライオンの方が
 いいよ。だってたてがみだよ、たてがみ。かっこいいって」

あの、いつのまにかヒョウがライオンにすりかわっているような気がするのですが妻の人。
私は妻の人にその点を指摘してみることにした。

「あの、ヒョウはどうなったんでしょう」
「ヒョウはどうでもいいの。ライオンがたてがみでかっこいいでしょ」

どうやらヒョウはもうどうでもいいご様子である。
ていうか、妻の人は私の言葉に反応するようである。本当に寝ているのであろうか。
不審に思い、コタツにもぐりこんできゅむきゅむと丸まっている妻の人の顔を覗き込んでみたが、
確かに両目を閉じて寝息を立てている。

「そろそろ起きませんか?そんなところで寝ていると風邪を引きますよ?」
「起きてる。起きてるって」

いや、どう見ても寝てます。
しかし、妻の人は私に対して自分が起きているということを頑なに主張し続けるのであった。
寝言だが。

「…分かりました。じゃあ、寝室に行って、ちゃんと寝たらどうですか」
「だめだめだめ。寝室には出るから」
「え、えと。出るって、何が?」
「らっぱ殺しが出る」
「ラッパゴロシ?」
「らっぱ殺し」
「あの、そのらっぱ殺しというのはなんでしょう?」
「らっぱを殺すの」

らっぱを殺す?
らっぱと言えば、あの金管楽器のラッパのことだろうか。
それとも忍者とかの「乱波」を意味しているのだろうか。
いや、もしかするとラップ音楽の奏者をラッパーとも言うから、そのことかも知れない。

「らっぱというのは、なんですか?」
「らっぱはらっぱだよぅ〜」
「分からないのですが…」
「ぱぷーぱぷー」
「ぱぷー?」
「そう。ぱぷーって鳴るの」
「楽器のラッパのことですね?」
「ぱぷーぱぷー」

聞いちゃいねぇ。
仕方が無いので私は最終手段を実行に移すことにした。
姫の眠りを覚ますのはいつの時代も王子様のチュウである。王子は私だ。

「にょっ!?にょにょにょにょにょ」

慌てふためいたような声を上げて、妻の人がばたばたと辺りを見回した。
お目覚めのようである。

「む〜」
「ここで寝てたら風邪を引きますよ?寝室でちゃんと寝てください」
「あい。そうすりゅ」
「ところでらっぱ殺しって何ですか?」
「にゅ?なにそれ?」

どうやら覚えていないようである。
私は先ほどから妻の人が喋っていた寝言の内容を、大まかに説明することにした。

「…とまあこういうことです」
「ふ〜ん」

妻の人は頭をぼりぼりと掻きながら、語り始めた。

「プエルトリコの友達がね、お団子を買うのに付いて行ったの。そしたらね、お団子屋さんは
 バーゲンセール中で、三つ買うとおまけで一つサービスしてくれるんだって。友達は四つ
 お団子が欲しいからこの場合三つで良いでしょ?でもその友達は分かってなくて四つ頼もうと
 するの。だから説得しなきゃと思って。そしたら、友達がのほほんとした人生の方が良いって
 言い張ったから、それはダメだと。シマウマみたいに心穏やかなだけじゃなくて、時には
 ライオンのように思い切りも必要だと私は思ったわけ」

を〜。
こうして改めて聞いてみると一見訳の分からないものにも筋が通っているように思えなくは無い。

「そうですか。プエルトリコの友達ですか。そんな知り合いもいたんですね」
「んにゃ?いないよ〜」
「いないんですかそうですか。ところで何故にシマウマ?」
「え〜?だって…」

妻の人はしばらく考え込むようなそぶりをした後、上目遣いに私を見た。

「プエルトリコってアフリカ?」
「…中南米です」

ちなみにらっぱ殺しの謎は未だ解明されずにいる。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓