雨谷の庵

[0372] レストランで食事を (2003/10/02)


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新婚間抜けドイツ紀行その4。

前回の分は「ぜんぜん間抜けじゃねー」とか言われてしまう内容だったので、今日は颯爽と
間抜けっぷりを書き連ねてみようかと思ったりしている次第である。
ていうか、そもそも私たち夫妻の間抜けっぷりは日本ローカルであるので、ドイツという異国の
設定情報をある程度読者諸賢と共有しておかなければ微妙に笑いのイメージが違ってきて
しまうかもしれないと言う、私のもって回ったような思考回路による結論から、前回はこの
旅行の基礎知識を簡単にまとめておいたというのがもっともらしい方の言い訳である。
いや、本音は単にオチが付けられなかったというだけであるが。
ていうか、オチなんてそもそも毎回無(以下2文字略)。

ドイツのフランクフルト空港に降り立った私たちが、まず向かったのはヴュルツブルクであった。
飛行機は昼に成田を飛び立ち、12時間ほどをかけてフランクフルトに着いたのだが、時差の関係で
フランクフルトはまだ午後5時頃であった。
観光するには時間が無いので、私たちのツアーはまっすぐホテルへと向かうことになる。
その初日の宿泊先がヴュルツブルクという街であったということだ。
ヴュルツブルクは谷間にある街で、街の中央にはマイン川が流れている。
ロマンティック街道の出発点でもあるこの街は、中世の頃は領主司教のお膝元で、丘の上には
城砦が、街の中心には宮殿と大聖堂があるという、観光にはもってこいの地でもある。
しかしヴュルツブルクに着いたのは日も沈みかけた頃であったし、その頃には店も閉まって
いるしで、初日には観光らしい観光は企画されていなかった。
夕食の予定も特に組み込まれておらず、ご自由にどうぞというスタンスだったのだ。

「街のレストランで食事をするのれす」
妻の人は初日早々から張り切っていた。
ホテルのチェックインを終わらせると息をつくこともせず、「地球の歩き方」と「るるぶ」の
2冊のガイドブックを握り締めながら、私たちはヴュルツブルクの街に出かけたのである。
ヴュルツブルクは新旧を取り混ぜたような雰囲気の街で、旧市街と思わしき場所にも結構近代的な
装いのショーウィンドウがあったりする。
店や喫茶店はことごとく閉店していたが、レストランの類はまだ営業しているようで、その
店先には屋外席が設けられて、人影が賑わっていた。
街路には明かりはあるものの、それらの光量はやや抑え目にしてあるようで、夕闇の中で街は
薄ぼんやりとたたずんでいた。
「どこか、食事のできる当てはあるのですか?」
私の横で、妻の人はガイドブックを睨みながら首を傾げている。
どうやら、地図と現在位置の対応に苦戦しているようであった。
「ここのお店の評判が良いらしいのれす」
見ればそれは街の大聖堂の近くのお店らしい。
私たちはそれらしき建物を目標にしながら、どんどん暗くなっていく星空の下、見知らぬ異国の
街を彷徨うのであった。

「ここじゃないですかね?」
しばらく右往左往しながら、私たちはそれでもようやく、地図に示されている場所とおぼしき
地点に辿り着くことが出来た。
目の前に建っている建物は、相当の年代を感じさせる古ぼけたもので、窓に明かりは無く
星空の暗さの中でひっそりと静まり返っていた。
ただ、建物の入り口の脇にはレストランのメニューといった感じの立て札が出ていたので、
なにかしらの営業を行っているらしいことは見て取れた。
「にゅ〜ん。めにゅうが読めないにょー」
「私も読めません。どうします?入りますか?」
夜のドイツで不審にひそひそと囁きあう日本人の男女二人。
よくよく考えてみればここはドイツである。
店員もドイツなら客もほとんどがドイツであろう。
そんな中に素っ頓狂な我々が薄ら笑いを浮かべながら乱入しても大丈夫なのだろうか。
今更ながら、そんな漠然とした不安が私たちの足元を重くさせていた。
そもそも、注文できるのか俺ら?

「あ、徳田さんじゃないですか。何してるんですか」
と、そんな私たちにいきなり日本語が飛んできた。
このパックツアーの添乗員さんである。
添乗員さんはにこにことした笑顔で、私たちが入ろうかどうしようかと迷っていたレストランの
中から現れたのである。
「ええと、夕食を食べようと思って店を探しているんですが」
「え?そうなんですか?」
添乗員さんはちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻って続けた。
「でも明日のお昼にはここを予約しておいたんですよ」
ああ、どうやらここは、本当に有名なレストランなのであるらしい。
もしかすると、観光客にとってご用達のレストランなのかも知れない。
ならば今晩ここで食事をするのは取りやめにした方が良いだろう。
ということで、再び私たちは街を彷徨う事になるわけである。
ちなみに、添乗員さんに食事に関するアドバイスを聞こうと思ったりもしたのだが、その時には
既に添乗員さんの姿は消えていた。

「ここのお店も、評判らしいのれす」
その30分後、私たちは別の店の前で再びひそひそと囁きあっていた。
裏通りを少し奥に入った位置にあるその店からは、明らかにレストランとしての活気のような
ものが聞こえてきていた。
「なんか賑やかだし、営業していることは間違いなさそうですな」
「うみゅ」
先ほどと同じような漠然としたドイツへの不安が再び私たちの心を重くさせたが、しかしまあ、
このまま立ち止まったままでもらちがあかないので私たちは店の中への突入を敢行した。
ああ、右も左もすべてがドイツで埋め尽くされている。
私も妻の人もドイツ語は全く出来ないので詳細は分からないが、どうも日本語でも英語でもない
なんらかの音声がこのレストランの中に充満していることだけはなんとなく分かった。
店に入ってみたのは良いものの、そこで私たちははたと困惑することになる。
ええと、どうすれば良いのだろう。
日本のレストランなどでは、店に入るなり店員が駆けつけてくることが多いし、もしそうで
無い場合でもしばらく待ってさえいれば店員がお伺いにやってくるのが普通である。
しかし、待てど暮らせどドイツは誰一人として私たちに声を掛けて来はしなかった。
「もしかして、こっちから話しかけないといけないんですかね?」
「すみませんって、言えばいいのかにゅ?それともえくすきゅうずみーか?」
「ドイツ語だとどう言うんでしょうね?」
そんな細かなことでもいちいち頭を抱える私たちだったが、とりあえず入り口でぼーっと
突っ立っていてもしょうがないので店の奥のほうに向かってうろうろとしてみることにした。
と、店の人らしき人物が声を掛けてくるではないか。聞き取れないけど。
彼の言葉にアホ面で首を傾げていた私たちの様子に合点がいったのか、彼は英語を話し始めた。
どうやら「英語なら大丈夫ですか?」と言っているようだったのでとりあえず日本人らしく
「Yes, yes」とうなずいてみた。
すると彼は途端に笑顔になって「二人で食事ですか?」と尋ね、私たちにしばらく待って
いるようにと指示して立ち去った。

ああ、ここまで書くだけでもう1回分の紙面を使い切ってしまった。
ということで、レストラン編は次回に続きます。

そうそう。
ちなみに私が店員とやりとりしている間、妻の人はにこにこと笑っているだけであった。
曰く「聞いててもぜんぜん分からなかったから、とりあえず笑って誤魔化したつもりにょー」
こんなことで私たちのドイツは大丈夫なのだろうか。嗚呼。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓