雨谷の庵

[0358] オールスターゲームという興業 (2003/07/02)


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このところ強い阪神を見慣れてしまってなんだか異世界に来てしまったのではないかとちょっと
ばかり錯乱してみたりもしたりしなかったり、そろそろ大阪界隈の地方では阪神の優勝セールに
向けての皮算用が本気で検討されていたりするんだろうと思ったり思わなかったり、まあ何は
ともあれ、身の回りの阪神ファンの人々の機嫌が良いのを見るのは私としても気分の晴れやかな
ことに他ならないわけで、別段阪神が勝つことで実害を受ける立場にはないわけで、それは
それで世界の在り方の一つとして受け入れてみるのも一興なのだろうなあと思いつつ、自分が
特にどこの球団のファンであるというわけでもないから半ば他人事のようにこうして批判めいた
文章を無責任に書き散らすこともできようというものかもしれない。

批判というのは、オールスターゲームのファン投票についてである。時事ネタです。
今朝、某国営放送のニュースで取り上げられていたのであるが、そのファン投票の中の
ネット経由でのものが、異様な事態に見舞われているというのである。
具体的に言えば、2chの祭りによる組織票が原因で某投手が一位になっているとのことらしい。
組織票での順位のゆがみということはこれまでも幾度と無く指摘されていたことであるが、
今回の特徴はその組織投票がコンピュータを用いた自動的なものだったということに
なっているようである。
私なりに経緯を整理してみよう。

 a. 主催側はホームページでの手入力による投票のみを想定していた。
 b. 同一人物による複数投票については、1日5件までという制限を設けた。
 c. 問題となっている組織票は、ホームページを介さず直接サーバにアクセスして
   投票するタイプのソフトウェアを使って行われていた。
 d. 組織票の一部は同一人物が複数の偽名を使って大量に投票していた。
 e. 組織票は2chによって煽動されたものだった。

同番組中では以前にTIME誌でのネット投票で某芸能人がトップとなった事例も紹介し、こうした
行為が最近では日常的に行われていると述べていた。
表面上は公平な報道という体裁を保っていたが、個人的には、どことなく「2chの連中の迷惑行為」
という側面を強調していたように思えてならない。
私は件の祭りに参加していたわけではないし、祭りのターゲットとなったファン投票に
投票した事は一度もないし、そもそも祭られてしまった某投手のことすらよく知らないという
ていたらくなわけで、情報源といえば今回の報道のみに等しいわけであるが、そのごく限られた
知見の範囲内で、今回の件をちょっと細かく批判してみたい。
すでにこうした批判はあちこちで何度も書かれているのかもしれないが、まあ、ご容赦頂きたい。

私の考える論点は以下である。

 A. 組織票の是非
 B. 自動投票の是非
 C. 偽名投票の是非
 D. 組織票の煽動の是非

まずA. についてであるが、これは事実上、主催者側から容認されていると考えるべきだろう。
なぜなら主催者は複数投票について「1日5件まで」という態度を公式に提示している。
これは1人の投票者の複数回投票を認めているということであり、それは一部の熱心なファンが
「ファン投票」の本来の統計的価値を歪めることを、そもそもの仕組みとして用意していると
いうことになるからだ。
もし、組織票を完全に認めないのであれば1人につき投票は1回(1日1回ではない)に
限定すれば良いだけの話で、そうすることに何ら技術的困難がないのであれば、これは
主催者がある程度の組織票を認めている(もしくは歓迎すらしている)と見なすべきだろう。
そしてつらつらと考えるに、主催者にとっての組織票は、歓迎すべき利点があることに気付く。
それはオールスターゲームの興業的観点から、特定球団の選手を優遇する手段として有用で
あるとか、見た目上の投票数が実際の投票人数よりもかなり多くなることで、オールスター
ゲームという興業が人気あるものであるという根拠とするとか、そういうことである。
もしそうした目論見をもって主催者が組織票を容認しているのであれば、今回の件について
主催者が「組織票だから迷惑だ」という主張をすることは許されないようにも思う。

次にB. について考えてみよう。
そもそも自動投票が可能になったのは、オンラインでの投票を設置したことが原因である。
投票自体は今までどおり郵送でも可能なわけで、それをオンライン化する事には主催者側に
それ相応の目的があったと考えるべきだろう。
ではなぜオンラインの投票を設置しかのかというと、これは推測だが、主催者が一般投票者の
利便の向上を目的としたというのが妥当なのではないだろうか。
その観点からすると、自動投票自体は批判されるべきものでは有り得ないように思う。
なぜなら投票のオンライン化が利便を目的としたものであるならば、自動投票はその
利便を最大化するものに他ならないからである。
つまり本来、自動投票はオンライン化のメリットの一つに過ぎず、それを主催者が迷惑行為と
見なすのは筋違いではないだろうか。
それならば、そもそもオンライン化などしなければ良いだけの話だからである。
もちろん、一般投票者の利便向上以外の目的でオンライン化が導入されたというのであれば、
上記したような私の批判は当たらないものである。
がしかし、利便向上以外の目的があるのであれば、いったいそれはどのようなものだろうか。
私には、その目的とやらがまっとうなものになるとは考え難いのだが。
例えばオンライン化を喧伝することによる宣伝効果だとか、システム導入をスポンサー企業に
一括委託することによる利権であるとか。
個人的には、そのような裏事情があるとは思いたくない。

C. については、明らかに批判されるべき行為だろうと思う。
そもそも今回のオンライン投票では本人確認のための情報(住所や氏名)を同時に
入力するようになっていたとのことなので、ここで偽名を使うことが良しとされないことは
一般常識に照らしてみれば明白であると考えるからだ。
この件に関して、偽名投票を行った人々には一点の是もないだろう。
主催者に対する営業妨害行為との批判も有り得るところではないだろうか。

D. については少々微妙な問題であると考えている。
そもそも煽動行為自体は悪でも善でもないからだ。そして、主催者側にとっての利害も、
煽動の内容次第で変わってくるので一括りには論じるのが難しい。
例えば、末期癌の患者がある選手の熱烈なファンで、死ぬまでに一度で良いからその選手の
オールスターゲームでの活躍を見たがっている、などといういわゆる「美談」を背景とした上で、
今回のような組織票の煽動行為が行われた場合、報道のトーンも少し違ったものになったのでは
ないかとも思うからである。
その場合、主催者側にとってもファン投票の中間発表のたびにその特定選手に注目が集まることで
オールスターゲームという興業の宣伝になるわけで、これを迷惑行為と断じたりはしないだろう。
しかし今回の煽動はどちらかというと面白半分な趣の強いものであったようであるし、その点は
批判されるべきことかも知れないが、そうしたモラルの問題は今更繰り返し強調すべきものでも
無いような気がしないでもない。
モラルの問題は現時点での評価と後世における評価が異なることでもあり、一概に結論づける
ことは避けたいと思っている。

ともかく今回の件について主催者は、オンライン投票の仕組みに組織票に対する脆弱性が
あったことを認め、一般投票者および祭り上げられた某投手に謝罪し、今後の対策を
約束するべきだろう。当然、今まで組織票を黙認してきたことも認めるべきだ。
自動投票を行った人には今回なんら非は無いと思うが、ただし、偽名での投票については
反省すべきだろう。
一般の投票者はこうした問題があることを認識し、今後組織票についてどう思うかを
考えていく必要があると思う。
祭り上げられてしまった某投手がどうすべきかは、これは本人の生き方と商売上の問題であり、
本人が処し方を決めるべきことだと思う。
個人的には辞退せずにマウンドに立ち、堂々とノックアウトされてしまうというのが潔くて
カッコイイとも思うが、まあ、こういうのは興味本位からくる意見だろうし無視して
もらった方がいいのかも知れない。

さて、では今後はどうしたらいいのだろうか。
まず、組織票を全面禁止するか組織票を認め続けるかの二択がある。
あらゆる形態での投票に対し、1人1票の原則を適用し、偽名は無効としさえすれば、
今回のような組織票対策は万全だ。
そんなことをしていたら手間がかかり過ぎるという批判もあるかもしれないが、もしも主催者が
投票の公平さを何物にも代えがたい価値と見なすならば、その努力を怠るべきではない。
しかし組織票の全面禁止が興業上の事情から難しいというのであれば、むしろ公式に組織票の
容認を打ち出すべきだろう。
その場合、自動投票による組織票に対抗する手段を一般の投票者にも普及させるべきだと考える。
具体的には、今回の祭りで用いられたような自動投票ツールを、公式サイトからダウンロード
できるようにし、その使用を公認すればよい。
そうすれば面白半分の組織票が一般ファンの組織票を上回ることなど有り得ないわけだし、
主催者側の興業的利益も損なわれることはないだろう。
また、従来通りの郵送投票をオンラインのそれに対して10票分とカウントするという優遇措置を
実施するということも有りかもしれない。
そもそもオンライン化はパソコンを使うことのできるファン層への優遇措置に他ならないわけで、
従来の手法とのバランス調整は当然であるとも言える。

また、オールスターゲームでのファン投票というものの在り方を、この際見直すという考え方も
あるだろう。
そもそも一企業の一興業に過ぎないオールスターゲームというものを、あたかも日本国民全体で
注目すべき国民的行事であるかのように扱うことに無理があるとも、考えることができるだろう。
例えばファン投票をゲーム観戦チケット一枚につき10票までとする方式を考えてみよう。
もともとの興業的意味合いからすると、こちらの方が理に適っているとも言えはしまいか。
この方式であればスタンドに足を運んでくれるお客様にとって最も魅力的な選手が選ばれることに
なるわけだし、そうとなればチケットを買おうというお客様の総数も増えるかも知れない。
多少、チケットを値上げしても十分な売り上げを出せるかも知れない。
また、関西と関東とでは人気となる選手もまったく違うわけだし、開催地毎に特色ある
メンバーでの対戦が組まれるというのもオールスターとしては魅力的に思える。
またこの場合副次的な利点として、購入したチケットの番号を入力してもらう訳だから、
ファン投票での偽名を完全に排除できるということもある。
これは同時に、投票者は無駄に氏名住所の入力を要求されることも無く、個人情報を危険に
晒さずに済むということも意味するわけで、セキュリティ上はこちらの方が望ましい。
もちろん、チケットの番号は容易に推測されるようなものでは駄目だったりとか、技術的に
考慮しなければならない事項は幾つか出てくるだろうが、現状のオンライン投票で問題になって
いるような困難と比べればさしたるものでもないだろう
この方式の問題点はテレビ放送での観戦者の意向が反映されないことだが、もともと彼らは何か
お金を払って視聴しているわけではないし、本来は考慮すべき対象では無い。
視聴者を多く獲得しなければならないというのは単に、興業のスポンサー企業の都合に過ぎない。

さて、つらつらと思うままに書いてみた。
とりあえずこのまま、まとまりのないままに終わってしまうことにするが、私の考えることなど
所詮はこういった曖昧なもやもやとした思考に過ぎないということでご容赦頂ければと思う。
ともあれ個人的には、オールスターゲームというものの在り方が今の時代にそぐわないものに
なりつつあるということを、今回の件は示唆しているように思えた。
それは今までマスメディア主導の中で興業性の強いものとして発展してきたプロスポーツが、
新たなメディアとしてのインターネットの普及とともに、大衆文化としての新たな在り方を
模索しなければならない時期に差し掛かっているのではないかという私の考え方に裏打ちされた
一つの所感に過ぎないことはまあ、間違いないのではあるが、もしかするとこれから
少しづつ考えていかなければならないことなのかも知れないと、思ったり思わなかったりする。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓