雨谷の庵

[0355] 首都圏密着電車事情 (2003/06/18)


[Home]
惚気はじめて早一年。

「成恵の世界」という漫画を読んだことは無いが、それを原作として作成されたアニメでは、
毎週のように主人公の和人と成恵のラブラブっぷりが展開されておりご馳走様も良い所である。
例えば今週放映分などは、アニメキャラのコスプレに異様な関心を示すオタク少年和人の
気を引くためだけに自らもコスプレすることを成恵が決意してみたりと「そんな女いるわけ
ねぇだろっ」というツッコミが深夜のテレビ画面に向かって確実に何万回と繰り返されたで
あろうと思われるようなベタベタなお話だったりしたわけで、そんな奇特な女性キャラといえば
エロゲーブランドLEAFの後期作品「こみっくパーティ」の瑞希ぐらいしか思いつかなかったり
するわけで、ともかく成恵の世界というのは有り得ない世界であるなぁと結論せざるを
得なかった次第ではある。

 徳田 「今週の成恵はちょっと狙いすぎじゃないのか。あんな彼女、絶対実在しねぇぞ」
 DELTA「あんたに今週の成恵をどうこう言う権利はねぇ。この幸せ者め」

すみません。ココがリアルラブコメサイトであることをすっかり失念しておりました。
ということで、今週もじゃんじゃんと惚気てみようと思います。覚悟しろ諸君。

さて。
引越しというのはその最中もばたばたとしていて何かと忙しなく、疲れるものではあるが、
引越しが終わった後も生活環境の変化なり生活パターンの変化なりに体が慣れるまで、
なかなかに疲労を感じるものであることはご想像頂けるであろう。
例えば買い物一つを取ってみても、どこにどんな店があり、そこが何を幾らで売っているのかと
いうことは何週間かに渡って逐次利用するなり足を向けてみるなりしなければ判らない訳で、
そういった情報を実感とともに有効に利用できるようになるまでには最低でも1ヶ月は
かかると考えておけばよいだろう。
私の場合は週末にしか買い物に出かけない関係上、その慣れるまでにかかる期間はもう少し
長いものとなるというのが実情だ。実際、まだあまり良く判ってはいない。
それでも、以前大阪から東京に引越ししたときに比べれば、東京から神奈川への引越しと
いうのは全くストレスの規模が違うと言わざるを得ないだろう。
関西と関東とでは文化も言葉もかなり異なるので、そういったものにも慣れなければ
ならないからだ。
例えば関東では、阪神タイガースが勝ったときに居酒屋が混雑したり、商店街が暴徒に
荒らされたりということは全く見たこともないしそういう話も聞いたことが無い。
それほどに、野球一つとっても社会の在り様というものは地域によって全く違っていたり
するものであるのだ。
ちなみに神奈川では、横浜ベイスターズが勝ったときでも特に街に変わりは無かったので、
そういうことを懸念する必要はなさそうである。
どうやら、あれは関西だけの風習だったようだ。

そういう訳で今回はあまり環境の変化を気にしなくても良さそうではあるのだが、唯一、
通勤経路が変わったことだけは、私の生活にかなりの影響を及ぼすこととなった。
以前、巣鴨に住んでいたときは最寄駅まで徒歩5分の好立地であったし、乗換えを含めても
40分ちょっとで会社に着くことができたわけだが、今回は最寄まで20分くらい歩かなければ
ならないし、そのこともあって通勤には1時間くらいはかかるようになっている。
正直な話を言えば、徒歩で20分というのは毎日往復を歩くには少々長い距離かもしれないと
個人的には感じている。実際慣れるまでには結構日数が掛かっている。
通勤時間が長くなったことは即ち、自宅で自由になる時間が1時間弱減ったことを意味する。
細かいことかもしれないが、こうした時間配分の変化は微妙なストレスとなっているようで、
いまだに体の疲れというか、精神的な疲労感というか、そういうものが抜け切らずにいるような
気がしないでもないというのが現状ではある。

しかしそれらは実のところ、たいした違いではない。
通勤経路の変化によってもたらされた一番大きな変化、それはやはりなんと言っても彼女の人と
私の最寄り駅が同じになったということに尽きるだろう。
これが何を意味するかというと、朝の通勤も夕の帰宅も、二人で一緒ということである。
突き詰めて言えば、今まで顔を合わせる機会といえば週末にデートするか仕事帰りにデートするか
盆暮れの長期休暇にデートするかオフ会に示し合わせて一緒に参加するか徹夜カラオケに
示し合わせて一緒に絶叫するか、そういった時しかなかったわけだが、というかこうして
書き出してみると結構頻繁にデートしたりしていたのだなと自分のマメさに感心しないでもないが
それはともかく、そんな疎結合的なコミュニケーションが主であった我々二人の関係は、ココに
来て朝晩毎日一緒という劇的な密度向上を果たしてしまったと言えるであろう。
これ以上の密度向上は最早、結婚して同居するその時まで訪れようもないであろうと断言しても
良いくらいではないだろうか。

しかし、私の惚気の恐ろしさはそんなことでは済まされない。
ご想像頂こうではないか。朝の通勤電車というものを。
首都圏に通勤しておられる読者諸賢ならば実感としてすぐに思い浮かぶことであろうとは思うが、
首都圏の通勤風景といえばそう、満員電車である。
そして恐ろしいことに満員電車の中で人は、密着せざるを得ない。
つまり我々二人は、毎朝密着しているのである。
残念ながら、これは私にとってかなりの試練であると言えるだろう。
当然のことだが、我々は節度を保った社会人であり、時折車中で目撃できるような、過度の身体的
接触行動に及んでいる二人組とは違う。
互いに抱き合ったりはしないし、もちろんせ、せ、せ、接吻するなどは有り得ない所業である。
ただそうは言っても、すし詰めという表現がぴったりな車中において、我々二人の距離は無限大に
ゼロであるわけで、例えて言うならば私の肩口では彼女の人の吐息がほのかに温かく感じられて
しまったりするわけで、細身の割には思いの他に女性らしい体つきをその体温とともに胸の辺りで
感じ取れてしまうわけで、長くて豊かな量の黒髪が時折私の頬をくすぐるわけで、ああ、これは
こういうことを言ってしまっては実に気恥ずかしいことなのかも知れないが、そんなときの私は
丹田の奥でぐるぐるととぐろを巻いている、ど、ど、ど、どーぶつ的な衝動のような感覚が
心臓の鼓動の一打ち一打ちごとにぴくぴくと頭をもたげてくるのを一生懸命に押さえ込むことで
必死になっていたりするのであることを白状しておこう。蛇の生殺し。
しかし、幾ら私にとって彼女の人のその全てが魅力的であるとは言っても、朝っぱらからそんな
どーぶつ的現象を具現してしまうわけには断固いかないわけで、ていうかそんな事態に陥れば、
この首都圏密着電車事情においては即時に彼女の人の知るところになってしまうわけで、そして
それは何としても避けねばならず、私の理性的な部分とどーぶつとの果てしない戦いの火蓋は、
毎朝毎朝の定例行事として切られ続けていると言っても過言ではない。
ほとんど太古の昔から遺伝子に刻み込まれていたのではないかと思われるようなどーぶつ軍団の
猛攻に対して、しかし理性という名のレジスタンスは切り札として「言葉による認識能力」という
高度に知的な思考作業を行使するのであった。
つまり、彼女の人の魅力を言葉に置き換え、それを理性的に処理しようと私は努めるのである。

 頭の後ろで束ねられた髪の毛がカワイイ。
 首を傾げながら文庫本に一心に見入っている姿がカワイイ。
 少し色の薄い眉毛の曲がり具合がカワイイ。
 筋の通った鼻の上にちょこんと乗った小さめの眼鏡がカワイイ。

大脳皮質の勇敢なる働きによって言葉に変換された私のどーぶつは、そのまま心の中で念仏の
ように唱えられた後、するりするりとどこかへ消えていくのであった。

 電車の混雑のせいかちょっと不平気味にとがらせた口先がカワイイ。
 窓から差し込む朝日を眩しげに遮る睫毛の一本一本がカワイイ。
 襟元からすらりと伸びる真っ白なうなじがカワイイ。
 耳の裏の髪の毛の生え際にうっすらと残る産毛がカワイイ。

ああ、どれもこれもみんなカワイイ。カワイイ、カワイイ、カワイイ……。
自分のお腹の辺りからすっかりとどーぶつたちが立ち去ったことを感じながら、私は清々しい
思いでにこやかに微笑むのであった。
しかしなぜか、そんな私を彼女の人は物凄い目つきで睨み上げていたかと思うと、私の腕を
引っ張り、電車の扉から駅のホームに連れ出した。

 徳田「あ、あの?降りる駅はまだ先なんですが…」
 彼女「びゅびゅびゅびゅびゅっ!」

どうやら、私はいつの間にか声に出して「カワイイ」を連呼していたようである。
電車の中で恥ずかしい事を言うなっ、とその後彼女に怒られてしまった次第である。
ちょっとだけ、自分の惚気っぷりが怖くなった、そんな一コマであったとさ。
嗚呼。

雨谷の庵は今日も雨。
< Back |List| Next >
管理者:徳田雨窓