雨谷の庵

[0305] SHEは人々を嘲笑う (2002/10/16)


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世の中に存在するありとあらゆるエスカレーター、それらはたったの2種類にのみ分類される。
それは怖いエスカレーターと怖くないエスカレーターである。

例えばデパートのエスカレーターは怖くないエスカレーターである。
ほのぼのとした日常的な買い物風景、そんな中にこじんまりと佇むエスカレーターが怖いなどと
いうことが有り得るだろうか、否無い。
むしろデパートのエスカレーターは非常に歓迎すべき存在である。
何しろ昇りのエスカレーターに乗るだけで我々はデパートの上層部にまで、非常に軽微な労力で
もって到達することが可能となるからだ。
エスカレーターの存在ゆえに、人類はもはや階段を駆け上がらなくても良いのである。
降りのエスカレーターにおいても話は同様である。
エスカレータの存在ゆえに、人類はもはや階段を転げ落ちなくとも良いのである。
上記のようにつらつらと考えてみて行くと、世の中に存在するエスカレーターのうち、
そのかなりの数に相当するものについては、それは非常に有効かつ便利な代物に他ならないわけで
取りたててそこに恐怖心を抱く必要など無いことは誰の目にも明らかであろう。
そう、エスカレーターは素晴らしい。エスカレーターは便利である。
我々人類はこのエスカレーターと呼ばれる物体を授かったことそのものに対して、感謝の念を
日々忘れずにこれからの人生を歩み続けるべきでは無いかと私は断固主張する者である。

しかし我々はともすれば、そんなエスカレーターの理力面にばかり目を奪われているのでは
ないだろうかと、私はここで疑問を挟んでおきたい。
常々において古今東西の賢者が苦言を惜しまぬように、物事にはすべからく表と裏の両面が
存在するものであり、要するにそれは真実は大抵2つくらいとかそういうことであり、
即ち翻ってこの賢者たちの助言をもってエスカレーターに適用するならば、我々は取りあえず
エスカレーターたちのもう一つの面、つまりエスカレーターの暗黒面に対しても熟慮でもって
理性的に対処しなければならないと愚考してみたりしてみなかったりする次第である。どっちだ。
そう、我々地球人類は今こそその叡智を結集して、このエスカレーターの暗黒面による諸現象に
想いを馳せるべきなのだ。
そしてそこから得られる恐るべき結論、更にその議論から予測的に導かれるであろう悲劇的な
未来に対して、一刻も早く対処すべきなのだ。
ああ、恐るべきはエスカレーターの暗黒面。
今、我々はその未知なる脅威の前に、ただのうのうと無知を決めこむ愚か者であるのかも
知れないのだ。
そう。エスカレーターの暗黒面の克服こそ、人類がネクストステップを駆け上がる為の、
神から与えられた試練に他ならないと、今こそ自覚すべきなのである。
覚醒せよ人類。昇格せよ人間達。我らのバージョンアップの時は到来せり。

一部の人類は既にお気づきのことだと思うのであるが、駅のホームに続くエスカレーターには、
巨大な暗黒面が内包されている。
ああ、恐るべし駅のホームに続くエスカレーター。
この脅威に気付いた私の膝は、その存在に想いを馳せるだけでカクカクと笑い始める始末である。
武者震いでござるよ、と虚勢を張ってみたくもなるが、しかし臆病者は臆病者としての本分を
全うすべきであろうという原理主義的思考回路を駆使して、このままカクカクさせ続けたいと
思ったりもする次第である。
それにしてもその名を口にすることも憚られるその恐るべきエスカレーターのことを論じるのに、
いちいち「その名を口にすることも憚られるその恐るべきエスカレーター」と記述するのは
非常に冗長に過ぎる訳で、ここはやはり人類の新たな発展に寄与する意味でも、その略称というか
隠語というか、そういうものを定義しておきたいと思う次第である。
駅は英語でStation、ホームはそのままHome、エスカレーターもそのままEscalator。
これらの頭文字を取るとSHEとなる。
ということでここでは以後、その名を口にすることも憚られるその恐るべきエスカレーターの
ことをSHEと呼称するので予めご了承頂きたい。

さてこのSHEであるが、その恐るべき暗黒面に気付いた者はいまだに少数派なのでは無いかという
危機感を私はここで告白せざるを得ない。
もちろん私はそうした、SHEの脅威に気付いていないであろう多くの人々を非難するつもりは無い。
先ほども述べたようにエスカレーターには眩いばかりの理力面があることは間違いの無い事実で
あり、その恩恵はすべからく人類を幸福なる楽園に導くものであると人々が考えたとしても、
それはそれで仕方の無いことであると考える次第である。
しかし、そうしたエスカレーターの理力面が輝きを増せば増すほどに、SHEの暗黒面は見え難くなり
その結果としてSHEは人々を嘲笑うかのように、脅威という名の牙を日々研ぎ続けていると言って
良いのではないだろうか。
これを見過ごすことは私には出来ない。
勇気ある決断でもって、私はここでSHEを強く告発したいと思うのである。

 聞けSHEよ、駅のホームが満員御礼になったら君は一体どうするつもりなのだっ!

満員になった駅のホームに対し、SHEは更に人を送り込み続けることだろう。
そしてホームからは人が溢れ、零れ落ち、そして死んでしまうでは無いか。
恐ろしい。こんな恐ろしいことが他にあるだろうか。
ああ君よ、これを杞憂と言う無かれ。事は人命に関わることである。
もし貴方の愛する人々が、SHEの無情な仕打ちにより、駅のホームで死亡したとすれば、貴方は
もちろん悲しみに暮れるはずである。
そう、これは誰にでも訪れ得る可能性の一コマであり、人類にとって共通の恐怖なのである。

残された時間、我々人類に出来ることはただ一つである。
SHEの暗黒面に、人類は一致団結して立ち向かわねばならない。
まずは出来ることから始めようではないか。
身近な努力の一つ一つの積み重ねこそが、やがては大きな力となり人類を飛躍させる原動を
産み出すに違いないのである。
さあ、貴方も今日から始めようではないか。
エスカレーターの上でその動きとは逆方向へ後ろ向きに歩く、その練習を。
エスカレーターの逆歩。
それこそがSHEの暗黒面を克服するべくして与えられた、我々の新たな進化の形に違いないのだ。

人々が一致団結してエスカレーターを逆歩する。
そんな人類の未来は明るい。
…のかなぁ。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓