雨谷の庵

[0303] ファンシーショップは唐突に (2002/10/09)


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ええと、ビリっけつでありまいた。

人間はいつから年を取るのだろうと考えてみたりすることは時々あるが、そもそもそうした話は
自身の認識の問題と他人からの観察結果の問題の二通りに分けて考えて見た方が良いのかも
知れないことではあるし、一般的にそういったものを総論として体系立てて結論してしまうような
ことは恐らく暴挙というか蛮勇というかおばかさんというか、っま、そんなことになりそうな
気配であることは重々ご承知のことであろう。
取りあえずそうした大局達観といった立場を離れてもっとこう、身近でポエミィな分野に話を
限定してみれば、年齢増加というものは非常に意味深い反応を人々に強いるものであると
言っても良いかも知れない。

ということで私は今、自身の年齢増加という現象について、実に深く考えざるを得ない状況に
陥っていることをここに申し述べておきたいと思う次第である。
もしも話の背景から懇切丁寧に解説するとするならば、それは1ヶ月前くらいに遡って
話さねばなるまい。
「あのねあのね、来月の日曜日に、ケンミンサイがあるの〜」
彼女の人が私にそう申し述べたのは、深夜の電話口であったような気がしないでも無い。
「ケンミンサイとは何か」
「ケンミンサイはケンミンサイだよ〜。もきもき」
私の疑問は一向に解消されないまま、話は進んでいくのであった。
「でね、ケンミンサイでね、フリーマーケットするの〜」
「ああ、ナルホド」
なにがナルホドなのか、実の私には一向に分かっていないのであるが、取りあえずそういう風に
生返事を返しておいたのが、今回私が年齢増加現象について思い知らされることのそもそもの
原因であったのかも知れない。
そうなのだ。私はそのとき、彼女の人をもっと詳しく問い詰めておくべきだったのだ。

当然の事ながら、彼女の人はケンミンサイとやらのフリーマーケットに参加することに
かなりの意欲を示しているのであった。
何しろ、某大阪から茨城に移り住んだ愛媛人日記書きの方が主催する、バーベキュー大会への
参加を辞退してまで事に臨む熱心さである。
「フリーマケットでね〜、小学生のガキどもからね〜、小銭巻き上げて儲けるにゅ〜」
自作の同人ファンシーグッズの在庫を抱え上げながら、彼女の人の熱意は息巻くのであった。
この時点での、ケンミンサイに対する私の認識というものは実に素朴なものであったことを
ここに告白しておかねばならないだろう。
広々とした広場に思い思いの敷布を広げ、その上にご家庭で不要になった物品を並べ、他では
見かけもしないような安っちい値段をペタしと貼り付けて客に売りさばく。
そんな中で私は、彼女の人と二人で、リスやハムスターなどの絵の描かれた便箋などを店先に
並べつつ、ほのぼのとした日曜の午後を過ごすのである。
ああ、なんとなく心和む風景では無いか。素晴らしいぞケンミンサイ。
しかしそんな牧歌的風景への憧憬は、当日会場入りした瞬間に打ち砕かれることとなる。
「あ、あの、なんか運動場に見えるんですが」
「ういうい。運動場だよ〜」
「あ、あの、なんか皆さん、老若男女が運動場を走り回ってますが」
「ういうい。だってケンミンサイだもん〜。にゅにゅにゅにゅ〜」
私が目にしたケンミンサイの有様は、恐るべきものであった。
赤組白組緑組黄色組。
弾けるピストルの音に上がる土煙、そして迸る汗と湧き上がる歓声。
ああ、私は同じような光景をかつて12回ほど目にしたことがある。
そう、ケンミンサイというのは地域住民主催の運動会に他ならなかったのである。
ここにおいて、私の敗北は既に決定的であったと言わざるを得ないだろう。
年齢増加現象の魔の手は、刻一刻と私の元に忍び寄っていたのである。

フリーマーケット自体は、そんな阿鼻叫喚の坩堝と化した運動場の、ちんまりとした片隅で
開かれていた。
出店数は10程度であろうか。
私が当初思い描いていた壮大な光景からは程遠いものの、それでも一つ一つの店はやはり
牧歌的な風合いであり、私と彼女とで開いた手作りファンシーショップも、そんなほのぼのと
した光景の一部と化していた。
目の前で繰り広げられている汗臭い世界さえなければ、私はこの穏やかな時間をゆるゆると
過ごしていたことだろう。
ちなみに店の方はこれまたかなりほのぼのとした売れ行き具合であった。
地域住民主催であるから、フリーマーケットに出品されているものはもちろん、ご家庭の
中古品がメインである。
そんな中に我々のファンシーショップは唐突に存在するわけで、見る者が見れば非常に浮いて
見えること間違いないとかそういう感じではあるが、しかし言い換えれば非常に目立っても
いるということであり、客の入りは良いと言えた。
まあ、客と言ってもそれは小学生や中学生のガキんちょなんですが。
ロリコン諸氏にはたまらないシチュエーションかも知れませんが。
もちろん私はロリコンではないので嬉しくもなんともありませんですとも。ええ。

私の日曜の午後の楽しみは永遠に続くかとも思われたが、しかしそんな至福の時がそんなに
長く続くはずはないのであった。
「じゃ、頑張ってきてね〜。お店の中から応援しているにょ〜。むいむ〜い」
彼女の人の笑顔に見送られるようにして、私は何故か運動場の競技トラックのスタート地点に
立っていた。
『それではこれから、一般成人による2km走を行います』
場内放送でアナウンスされたその言葉に、私は少々戦慄せざるを得なかった。
2km走である。
2kmを走るのである。
誰だそんな妙な企画を考えた奴は。
2kmといえばアレである。歩けば約30分とかそういう距離である。
中学高校での運動能力テストで持久走といえば1500mであるから、2kmはそれよりも500mも
長い距離であるということになる。
私が何故にそんな距離を走らねばならないのかということについては諸説があるが、既に
スタート地点に立ってしまった以上、そういう些細な考察などもはや無意味と言わざるを得ない。
無慈悲に鳴り響く競技開始のピストル音。
こうして私は、年齢増加現象の魔力に踊らされるままに、2kmをよたよたと走るのであった。

そして今、私は自身の年齢増加を痛感することになる。
あの忌まわしきケンミンサイから時間が経過すること既に3日間。
しかし私の全身を襲う筋肉痛の数々はいまだその猛威を衰えさせる気配すらない。
ああ、年を取ったものだなぁ。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓