雨谷の庵

[0302] 神様殺人事件だよ (2002/10/03)
※プロット破綻雑文祭?


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「ともかく信じるか信じないかということだけは、貴様に許された唯一の自由である」
猿がほざいたその言葉だけが、私にとっての事実なのだろうか。

私が道端を歩いている横を時折通り過ぎていくのは自動車だったが、今私の目の前で私の行く手に
立ち塞がりやがっているのは、一匹の猿だった。
どこからどうみても猿だった。
私はこの唐突な展開そのものに日常というありふれた罠の意地悪さを感じずにはいられなかった。
なぜ私の目の前に猿がいるのか、その理由は分からなかった。
なぜ今私は猿に通せんぼされねばならないのか、その理由は分からなかった。
ともかく一つだけ私にとって確実なことは、私はこの先へ続く私自身の道に対して少々急ぎの
感覚を保有しているであろうということであり、そしてそういった比較的個人的な事情をもって
考察するに、この猿というものは実に不要極まりなく、今の私というちっぽけな存在にとって
そもそも最も邪魔っけな物体であると断言せざるを得ないように思われた。

「そこをどいてくれないか」
この台詞を口にしたとき、私は恐らく少々思考回路に混乱を生じ始めていたのだろう。
何故なら私の目の前にいるのは恐らくれっきとした猿であり、猿であるがゆえに人語というか、
そもそも日本語というか、もっと細かいことにこだわるならば関東という一地方とテレビの
中だけで用いられているであろう方言を、この私の目の前にずでんと立っている生き物が
理解するなどということは有り得ないと思う事の方が実に常識的であり理性的な人物の
考えることのそれであるだろうと感じているからである。
しかし私はもう一度、こう言わざるを得なかった。
「そこをどいてくれないか」と。

私の断行した2度の呼びかけに対し、しかし猿は悠然とした態度を保持し続けるつもりの
ようだった。
何故なら彼の面持ちはたいそう穏やかで、しかし何やらどことなく決然とした意思を持って
両足を踏みしめているように私には見えたからである。
いやしかし、彼は猿なのだ。
果たして人間が自身に対して結構な尊大さでもって抱いているかも知れない、意思というものを
猿であるところの彼に要求するのは、妥当であると言い切れるのだろうか。
そもそも、この猿が彼なのか彼女なのかということについても論じておかねばならないかも
知れないのであるが、しかし論じようにも私は今一人きりであるし、ていうか猿は目の前に
いるのであるが、猿は数にいれんでも良いとも思ったり思わなかったり、それにしても今の私に
とってこの猿っころがオスだろうがメスだろうがどっちでも良いじゃんという考えが先程から
去来してみたり、ああでもなんとなく股座の辺りに男性に特有の特徴的な物体が見え隠れして
いるようにも思うけど毛むくじゃらの毛・ダモノだけに今一つ良く分からないし、って
あちきったら一体何を考えているのかしらはしたないにゅ。
思わず余所行きの思考回路がカジュアルにシフトしてしまいまいたが、あちきが自分の
困惑っぷりにコソーリとくねくねしていると、その目の前の猿が口を開きやがったのれす。
「我は男でも女でもないぞ愚かなる民草よ」
いや、なんでそんなにエラそーなのれすかにょ、猿の人。

どうやら猿の人には日本語が通じるようなのれす。
あちきは英語は苦手なのれすが、日本語ならばもいもいと普通の人並に喋ることもできるのれす。
「あのね、お猿の人。あちき、ちょいと急いでいるのれす。そこをどいてくれると嬉しいにょ〜」
「寝言は寝てから言うものだ愚民よ」
「寝言じゃないにょ本気だにょ。さっきからどけっつってんだろこの猿コロ」
「よいか愚民よ」
猿はあちきの思考回路を無視して、何やらどっか遠くを仰ぎ見るような眼差しになったのれす。
「我は神だ」
やばいにょ。どうやら宗教の人の猿の人だったらしいにょ。ピンチにょ。
あちきの脳味噌っぷりの中身ではいつも何かのテーマソングが流れていたりするのれすが、
今はそれがピンチのテーマに変わっちまいまいたにょ。
さっきまではハイソちっくな斜め2ミリのテーマでご機嫌ソングだったのにぃ。
ルンルン気分でナメコイソーでありまいたのにぃ。むうむうむうむうっ!
あちきは猿の人の偉っそうな態度にムカツキ始めていたのれす。
この毛・ダモノ、殺してやろうかしらびゅびゅびゅびゅびゅ。<威嚇のつもり
ああ、でもでもそんなことをしたら殺人事件になってしまふのれす。
自称なんだけど一応神様を殺してしまうわけなのだから神様殺人事件だよ…って、人じゃないから
殺人じゃなくて、ええと、ええと…もきぃ!
あちきは混乱に頭を掻き毟るのですとも。ええ、ええ。

「大丈夫だよお嬢さん。はっはっは」
青空の彼方からやってきたのは何を隠そう、いや全然隠してないのれすが、ていうか全身全て
真っ裸なので隠しようもありませんですのだけれども、いやいやそれはちょっと話が逸りて
いるのれすが、ともあれ正義の味方の人が助けに来てくれたのれす。
あちき、ピンチ脱出にょ。
「僕が来たからには世界の平和は守られたといっても過言ではない。はっはっは」
正義の味方の人は爽やかっぷりを何気にアッピールしながら、宗教の人の猿の人に向かって
ビシッと右人差し指を突き付けたのれす。
「さあ、悪は今こそ滅びるべきなのだっ!はっはっは」
「貴様のような愚民以下のゴミムシ如きが何をほざこうとも神の真理は普遍かつ不変だ」
自身満々の正義の味方の人と、自称神様の宗教の人の猿の人は、烈しく睨み合うのれす。
正義vs神。
ああ、あちきを巡って今、地球の中でも一、二を争うかも知れない戦いが繰り広げられて
いるのかも知れませんにょ。

「正義の味方アロー!」
「正義の味方イヤー!」
「正義の味方ウィング!」
「正義の味方ビーム!」
「正義の味方チョップ!」
「正義の味方キック!」
「正義の味方アイ!」
「正義の味方カッター!」

正義の味方の人の繰り出す技の威力は凄まじく、地は割れ大地は轟き山々は唸り海は荒れ狂い
空には暗雲が垂れ込め稲妻は翻り嵐は吹き荒れ雨は土砂降り雪は雪崩れ氷は凍てついた。
「ぐっはぁっ!」
しかし大方の予言者の言葉に反し、苦悶の呻き声を吐き出したのは烈火の攻撃を繰り出した
正義の味方の人の方であった。
「何故だっ!?何故僕の必殺技の数々が、こんな猿一匹に通じぬのだ?!」
答えの得られぬ問いと共に血反吐をそこら中に撒き散らし、正義の味方の人は単なる動かぬ屍へと
変化するのであった。
戦いは終わった。
猿は独り、荒れ果てた荒野に立ち尽くしていた。
「空しい…」
猿の眼からは何故か、清らかな涙が零れ落ちていた。
「何故、人は戦うのか。争いは何も産まぬ。力で真理を圧することは出来ぬ」
猿の涙は大地を濡らし、そしてそこから幾千もの草花が萌え出でた。
神話の始まりであった。
「歴史は繰り返す。そして神は常に孤独だ」
猿は何処へともなく去っていった。

猿は世界から立ち去った。
そのしばし後、世界は今一度最初から天地創造され、アダムとイヴは再び楽園を追われる事に
なるのであるある。
むいむいっとね。

雨谷の庵は今日も雨。祭の締切はとっくに終わってますが、とにかくごめんなさい。
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管理者:徳田雨窓