雨谷の庵

[0299] ☆ザコAのパステル裏方日記☆ (2002/09/24)
※パステル雑文連鎖


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本当は恐ろしいパステル日記。

「うぇっ、ま、マジっすかっ」
俺は思わず大声出してしまった。
なんでかというと、あの憧れの鷹羽先輩が停学処分になったというのだ。
それも他の学校の生徒とケンカして、ということらしいんだが俺にはそんなこと、
到底信じられはしない。
「だって先輩、もう、シャカイジンっしょ?!」
電話口の向こうの先輩は、何やら重苦しい雰囲気で事の顛末を話し始めた。

鷹羽先輩が庭田順子から交際を申し込まれたのは先月のことだったらしい。
先輩自身は今年の春に高校を卒業していて、今は町工場でシャカイジンをやっている。
昔は荒れたところもあった先輩だったが、今ではすっかり落ち着いたっていうか、まあ、
まっとうな勤め人の貫禄もそろそろ板について来てるって感じだった。
「最初は可愛い子だな、と思ったんだよ」
庭田順子は鷹羽先輩の高校の後輩にあたる。
っていうか、俺と順子は元々は同級生だったりもした。
向こうはこちらのことを知らないだろうが、俺らのような血走った野郎の間では、地味目でも
すらりとした清楚な雰囲気の順子はなんとなくお嬢様って感じで密かに人気があったりもした。
「妬けますねぇ。良いじゃないですか。そのまま付き合ってれば」
俺はなんだか先輩の惚気を聞かされているような気分になっていたこともあり、からかい半分に
そう言ったが、何故か先輩の口調は重々しかった。
「とにかく、お前に相談に乗ってもらいたいんだ。な?頼むよ」
俺は先輩と、近くのファミレスで会うことにした。

「まあ、まずこれを読んで欲しい」
先輩は注文をし終えると早々に、俺の目の前に何やらけばけばしい物体を持ち出した。
ぱっと見には派手な模様の入り乱れた便箋のようだった。
そしてそこには妙に丸っこい字で、謎の文言が埋め尽くされていた。

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他校の不良グループはジュンを拉致しちゃうの。さあたいへんっ!
不良のボスは鷹羽先輩に決闘状を送るんだけど、それはもちろん罠。
でもそれを知らない鷹羽先輩はたった一人で数十人の不良グループが待ち受ける、
廃工場に行っちゃうの。ジュンとの永遠の愛の為に。きゃ☆
ぼろぼろになってもジュンとの一万年の刻を超えた愛を貫き通す鷹羽先輩は、何度も
何度も立ちあがって不良のボスと闘い続けるの。
だってそれは大いなる宇宙の真理が決めた永遠の宿命なんですもの。
そして、その愛の果てにはきっと、二人の神聖な未来が待っているから☆
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「な、何スか?これ?」
「実はな。ジュンは自分自身のことを予言者だと信じているようなんだ」
「よ、予言者っスか!?」
「ああ。彼女はアトランティスの僧族の末裔で、未来を見通す力があるということらしい」
「でも、こんなの、天地がひっくり返ったって起こりっこないっスよ」
「ああ。分かってる」
「そもそも先輩はもう、ガッコ卒業しちまってるじゃないっすか」
「ああ。それも分かってる」
どうやら、順子は鷹羽先輩が学校に来ない理由を自分なりに考えた結果、先輩は他校の
不良グループとのケンカで停学処分になったのだ、ということを思いついたのであるらしい。
本当は卒業してしまっているだけなのだが。
「ジュンはジュンなりに俺のことを心配してくれているんだ。で、この予言を書いたのだろう」
「で、俺に相談って、何っスか?」
「ああ、そうだった。実はな、お前に俺と決闘してもらおうと思ってるんだ」
「な、なんでっスか!?」
「ジュンの奴、この予言は太古の宿命の歯車によって既に決められているって言うんだよ」
「はいぃっ!?」
「予言というのはその歯車を読み取る作業らしい。で、予言者は自身の生命を使ってそれを行う」
「ってことは、この予言が外れると、順子の奴はどうなるんっスか?」
「外れることはありません、ってジュンの奴は自身満々なんだけど。俺には悪い予感がして…」
それはそうだろう。
予言通りにならなかった場合、最悪、順子は自ら命を断ってしまうかも知れない。
常識で考えればそんな馬鹿馬鹿しいことは有り得ないが、何しろ事はアトランティスだ。
どんなシキタリやオキテがあるか、分かったもんじゃない。
「根はいい子なんだよ。ジュンは。だからさ、頼むよ」

ともあれ、俺は先輩の申し出にできるだけのことはすると約束した。
まずは数十人の不良グループ役を集めないといけない。
もちろん他校の不良グループなんてのは無理だ。
何しろそんなものは先輩が1年坊主だった頃ならともかく、今のご時勢では有る訳が無い。
取りあえず俺は鷹羽先輩のツテを使って、強面の仲間に声を掛けた。
十数人しか集らなかったがそれでも一応不良グループといった感じの体裁だけは整いそうだった。
次は先輩の決闘相手、不良のボスだ。
もちろんそれは俺がやっても良かったが、どうせなら強そうな奴の方が良いだろう。
ということで、高校の相撲部の連中から適当にガタイの良いのを見繕って出張ってもらった。
決闘状もちゃんと、書道部の奴に毛筆で書いたものを作ってもらった。
達筆過ぎてバレバレな気もしたが、これくらい時代がかっている方が馬鹿っぽくて俺は好きだ。
鷹羽先輩とも綿密に打合せをした。
決闘の際の台詞や殺陣の順番。
一番苦労したのはどうやって一対一のタイマンに持ち込むかということだった。
何しろ強面揃いとはいえ集めたメンバーの中でケンカをしたことがある奴なんていやしない。
それぞれが入り乱れて戦闘劇を演じて余計な怪我をしてもつまらないし、この点だけは
なんとしても譲れなかった。
まあ、そのおかげで決闘の場面の筋立てはどうにもお馬鹿で矛盾だらけの代物に成り下がって
しまったが、所詮は下手な三文芝居、大根脚本と罵られても仕方は無い。

「しかし良くジュンの奴を連れ出せたな。まさか怪我とか、させてないよな?」
いよいよ本番の当日、俺は先輩と最後の打合せをすべく例のファミレスで顔を突き合わせていた。
俺は前もって示し合わせていた通り、今朝、登校中の順子を拉致した。
拉致というよりも単に声を掛けただけだったが、順子の奴はどう言う訳か嬉々とした表情で
俺の後についてきた。
順子は「やっぱり予言の通りになるんだわ」だの「これで私は先輩と永遠に結ばれるのよ」だの、
ちょっとばかり意味不明な独り言をぶつぶつと呟いていたりもしたが、今も大人しく廃工場の
奥のパイプ椅子に座っているだろう。
ちなみに廃工場には、先輩の勤めている町工場の古い建物を持ち主に断って貸してもらっている。
「何も問題ないっス。順調っス。後は先輩が順子を助けに行けばおしまいっス」
「ところでお前ももちろん、今日は現場に来るんだろ?」
「ええ、もちろんっス。万が一の時のこともあるんで、ボス役の奴の側にいるっス」
「そうか。まあ、ザコAってところだな」
「はは…ま、そんなところですね」
「ところで、前から気になっていたんだが…」
先輩は俺が持っているノートを指差しながら笑った。
「そのノート、一体何が書いてあるんだ?見せてもらったこと無いけど」
「え?あ、これっスか?これはほら、今回の茶番のためのメモノートっスよ」
「そうか。さしずめ『☆ザコAのパステル裏方日記☆』って奴か?」
「はは。そ、そうっス。そんな感じっす」
俺は先輩からノートに書かれた文字が見えないように、さりげなく位置を変えながら、小さく
ノートの端にメモ書きを走らせた。

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今日の奴は俺に探りを入れてきているのかも知れない。これは一万年前と全く同じだ。
奴は前にも同じように密かに探りを入れ、姫を救おうと集まったムーの騎士たちを暗黒の
罠に陥れた。奴はまだ完全には覚醒し切ってはいないようだが、その暗黒邪念は姫の理性を
狂わせているのかも知れない。ああ、姫はまたもや奴の手に落ちてしまうのか。
いや、だが今回こそは姫をお救いせねばならない。幸い、我々は既に5人が覚醒し、奴に
対抗するべく結界を準備中だ。残りの3人の行方はまだ分からないが、今回集めた中に
きっと居るはずだ。姫の聖なる波動に導かれ、同志はその神聖な誓いを思い出すだろう。
そうすれば奴を葬り去ることが出来る。そして、我等8人のムーの騎士は、姫と契りを
交し合い、超時空の彼方から超越神ラ・ムーを召喚するのだ…。
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そう。
このノートを、奴に見られる訳にはいかない。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓