雨谷の庵

[0243] 王様と三人の賢者 (2002/02/04)
※うそつき雑文企画


[Home]
王様と三人の賢者のお話です。

昔々、ある小さな国を若い王が治めていました。
その国は周りを大きな国に囲まれていました。
周りの国々は互いにいがみ合い憎み合い、戦の絶えるときはありませんでした。
小さな国の若き王は戦が嫌いでした。
だからどの国にも味方せず、細々と国を治めていました。
しかし周りの国の王たちは、王を放っておこうとはしませんでした。
王に自分の味方になるよう、説得の使者を何度も送ってくるのです。
そんなある日のことでした。
周りの国の王たちからの使者にどう返事をすればいいのかと悩んでいた王のところへ、
一人の賢者がやって来ました。
その賢者の耳は大きく、その身には金色の衣をまとっていました。
「王様。小さな国の若き王様。何をそのように悩んでいるのですか」
王は、金色の賢者に自分の悩みを打ち明けることにしました。
王の話を聞いた後、金色の賢者はうなずきながらゆっくりと答えました。
「王様。私は全ての言葉を正しく理解する力を持っています。必ず王様のお役に立つでしょう」
これを聞いた王は、喜んで金色の賢者を城に迎え入れました。
それから10年間、小さな国の若き王は周りの国々を繰返し訪問しました。
王は相手の国の王の話をじっくりと聞き、その言い分を金色の賢者は正しく解説しました。
周りの国々は次第に、お互いが誤解し合っていた事に気づくようになりました。
戦の数は次第に減り、国と国の争いは話し合いで解決されるようになりました。
そして小さな国の若き王は、小さな国の賢き王と呼ばれるようになりました。

戦はすっかりなくなり、平和が何年も続いた後、その小さな国に飢饉が起きました。
何日も何ヶ月も雨は降らず、畑はすっかり干上がってしまいました。
小さな国の賢き王は、急いで水路を造り、畑を救おうとしました。
しかしその水路が出来た途端、今度は国に大雨が降りました。
何日も何ヶ月もその大雨は続き、畑はすっかり水浸しになり、街も泥水で溢れてしまいました。
街には疫病が流行るようになり、人々は飢えと病で次々と死んでいきました。
王は金色の賢者に相談しました。
しかし、金色の賢者は悲しそうに首を横に振るのでした。
「王様。小さな国の賢き王様。私の力ではどうすることもできません」
全ての言葉を正しく理解しても、自然の気まぐれから身を守ることは出来なかったのです。
しかし、金色の賢者は言いました。
「私の知り合いの賢者を呼び寄せましょう。必ず王様のお役に立つはずです」
王は喜び、早速その賢者を呼び寄せました。
その賢者の眼差しは鋭く、その身には銀色の衣をまとっていました。
銀色の賢者は王に挨拶をすると言いました。
「王様。私は全ての未来を正しく見通す力を持っています」
それから10年間、小さな国の賢き王は何度も国中を巡り歩きました。
王は全ての場所にその足を運び、その場所の未来を銀色の賢者が正しく解説しました。
人々は次第に、自分達の土地をどのようにすればより良くなるかを考えるようになりました。
飢饉は起こらなくなりました。
大雨が降っても、洪水の心配をしなくて良くなりました。
毎年のように豊作が続き、小さな国はだんだんと大きくなりました。
そして小さな国の賢き王は、大きな国の賢き王と呼ばれるようになりました。

国は栄え、平和の内に幾年もの月日が流れ去りました。
大きな国の賢き王も年を取り、病に伏すことが多くなりました。
王は自分が死んだ後、誰が国を治めるのかを決めておきたいと思うようになりました。
しかし困ったことに、王には後継ぎが居ませんでした。
生まれた子供はすべて女の子で、一人も男の子が居なかったのです。
王家のしきたりでは女の子は王になれません。
王は銀色の賢者に相談しました。
しかし、銀色の賢者は悲しそうに首を横に振るのでした。
「王様。大きな国の賢き王様。私の力ではどうすることもできません」
いくら未来を見通しても、この先男の子が生まれることはあり得ないと言うのです。
仕方なく、王はこのことを相談できる賢者が他に居ないかどうか、金色の賢者と
銀色の賢者に問いました。
二人の賢者は互いの顔を見合わせた後、困ったような顔で王に答えました。
「王様のお役に立てるかどうかは分かりませんが」
「北の祠に、一人の賢者が住んでいます」
王は喜び、早速北の祠を訪ねました。
金色の賢者と銀色の賢者の言葉の通り、祠には一人の賢者が住んでいました。
その風貌はみすぼらしく、その身にはボロボロになった灰色の衣をまとっていました。
大きな国の賢き王は灰色の賢者を見て少し迷いましたが、思い切って悩みを打ち明けました。
灰色の賢者は王の話を聴き終えると、にっこりと笑って言いました。
「王様。大きな国の賢き王様。私はどんな嘘でも信じ込ませる力を持っています」
そして灰色の賢者は、次に生まれてくる女の子を男の子であると嘘をつき、
男の子として育て後継ぎにするよう、王に勧めたのでした。
これを聞いた王は怒り、祠に灰色の賢者を残したまま、城に帰りました。
城に帰った王はすぐさま、女の子でも王位を継げるよう王家のしきたりを変えると、
娘の中の一人を次の王に選びました。
それから10年間、大きな国の賢き王は毎日毎日、新しい女王の悩みを聞き相談に応え、
女王が国を治める手伝いをしました。
新しい女王は良く国を治め、やがて立派に一人立ちできるようになりました。
そして大きな国の賢き王は、王とは呼ばれなくなりました。

王と呼ばれなくなってしばらくした後、男はとうとう最後の時を迎えることになりました。
男は長い眠りに就く前に、三人の賢者を呼び寄せました。
男は金色の賢者と銀色の賢者に礼を言うと、最後に灰色の賢者に言いました。
「私は昔、貴方に大変失礼なことをしてしまった。申し訳無いと思っている」
「王様。今はもう王とは呼ばれなくなった王様。気にすることはありません」
灰色の賢者はあのときと同じように、にっこりと笑って言いました。
「どんな嘘でも信じ込ませることができるという、あのときの私の言葉が嘘だったのですから」
そして灰色の賢者は男の耳元で、自分の本当の名前を囁きました。
今はもう王とは呼ばれなくなった男はそれを聞くと、安心したかのように目を閉じました。

とっぺんぱらりのぴーひょろろ。
雨谷の庵は今日も雨。
< Back |List| Next >
管理者:徳田雨窓