雨谷の庵

[0184] 男三人のむさ苦しい (2001/09/13)


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狭い狭い。

ある日突然、大量のダンボール箱が送られて来たとしたら、それはもちろん
驚かねばなるまい。
ということで、取りあえずは驚いておこう。なんじゃこりゃあっ。
大量の、というからにはもちろん物凄く沢山送られて来たのであるが、貴方には
その多さがご想像頂けないに違い無い。
なにしろ、箱の数にして25箱である。
小さな箱というわけではもちろん無い。
スイカ箱というのだろうか、スイカが2つちょうど納まる大きさの箱が10箱ある。
さらに、その倍の容量の箱が7箱。
残りの8箱はその二種類の箱の中間程度の大きさだろうか。
何がどうなっているのか見当も付かないうちに、私の部屋は箱で埋め尽くされて
しまっていた。
見上げれば、傍には箱がうずたかく積み上げられている。
有難うございました、という言葉を残してにこやかに立ち去ろうとしている宅配の
人々の数、5人。
5人がかりで、この大量のダンボール箱を私の部屋に詰め込みやがったのである。
もちろん、このダンボールは空ではない。
何が入っているのかは分からないが、とにかくひたすら重く、尋常ではないなにかが
詰めこまれているようにも思われる。
そうか。
取りあえず、開けて見ようではないか。
このまま途方に暮れていてもどうしようもないことは明白なので、私は気を取り直して
手近のダンボール箱に手を掛けた。
ビリビリというお決まりの音を上げて、ダンボール箱を封じているガムテープが
私の手によって剥がされていく。
そして、本が出てきた。
しかも漫画本である。
その、私が最初に開けた箱の中にはみっちりと、漫画本が詰めこまれていたのであった。
なになに・・・「貧乳大王」「貧乳倶楽部」「貧乳白書」?
なんじゃこりゃあっ。
驚いたコトに、その漫画本の数々はすべて大きなお友達専用書籍に類するものであった。
しかも全部貧乳系。
これをいったいどうしろと。いや、嬉しいけど。
と、ここで私はある心当たりに気がついた。
そういえば、こういうものばかりを集めている知り合いが一人、居たではないか。
慌てて、先程の宅配の人々が置いていった伝票に目を移すと、そこには私の予想していた
人物の名前が何気に記されていた。
やはりお前か。
そこに書かれていたのは浜中某(仮名)の名前であった。
ということは、もしかしてこのダンボール箱の数々は、彼こと浜中某の愛蔵物であるとか
そういうことであろうか。
ふと思い当たることがあって、私は別の箱を開けて見ることにした。
ガムテープが立てるビリビリという音とともに出て来たのは、LDの数々。
ガンダム、ボトムズ、テッカマン、銀河英雄伝説・・・。
間違いない。
どことなく見覚えのあるそれらは、確かに浜中某のコレクションであった。
どうやら、浜中某が何らかの理由で私の下宿に自分のコレクションを送りつけてきたとか
そういうコトであるらしい。
いったい、どういう了見なのであろうか。
私は浜中某の自宅に連絡を入れて見るコトにした。
手近の電話を取り、番号をプッシュする。
しかし、繋がらない。
耳元の受話器からは、私の指定した番号が現在使用されていないことを伝えていた。
もしかして、電話の契約を解除したのか浜中某。
そんなにお金に困っているのか浜中某。
もしかして、また千と千尋の神隠しを見に行ってしまったのか浜中某。
そういえば浜中某は先月来、行方不明のままである。
夏のイベントにやってくるのかと思いきや、そういう訳でも無かったようだ。
そのころはまだ電話が通じていたはずなので、そのあと浜中某がなんらかの行動を
起こしたと考える他無い。
そんなことをつらつらと考えていたときの事だろうか。
ピンポーン・・・
玄関先から、呼鈴の音が聞こえて来た。
また、宅配便であろうか。
私は周囲の状況を見回しながら玄関先に足を向けた。
しかし、これ以上の荷物を持ち込まれても、もう部屋の中には置く場所は無い。
どうしたものだろうかと首をひねりながら扉を開けると、そこには見知った顔が立っていた。
「よう、徳田。来てやったぞ」
浜中某、その人だった。

どうやら、失業手当が今月分を最後に貰えなくなってしまったらしい。
浜中某が前の仕事を辞めて早、半年くらいが経つ。
その間は貯金や失業手当で食いつないで、ぶらぶらとしていたらしい。
先月から行方をくらましていたのは、お金が無くなり始めたので友人知人の家を転々と
していた為だそうだ。
聞けば、自宅は電気やガス、水道を止められてしまっていたとのこと。
なるほど、電話をかけてもコール音がするばかりで本人に繋がらなかったのも、そのため
だったとかそういうコトなのだろう。
それでも時々は自宅に帰って、ちまちまとゲームやDVDを売って金に替えていたり
したらしい。
それで、千と千尋の神隠しを見に行っているのだから、始末が悪いが。

徳田「ところで、こっちに来たのはどうしてですか?」
浜中「いや、こっちで就職しようかと思って」
徳田「なんですと?」
浜中「いやぁ、あっち(岡山)って、仕事無いんだよ。全然」
徳田「それで、こっちでの下宿とか、どうするんですか?」
浜中「ということで、よろしくな」
徳田「はいぃ!?」

ちょっと待たんかいコラ。
要約すると、こうである。
仕事を辞めて半年ぶらぶらしていた浜中某は、お金が無くなったことを契機に東京で
職探しをすることに決め、当面は私の下宿に居候することにした。
とまあそういうことなのだが。

浜中「いつでも遊びに来てくれって、前に言ってたじゃねぇか」
徳田「いえ、それはまあいいんですが」
浜中「じゃあ、問題無いだろ」
徳田「いや、この大荷物はさすがにちょっと困るかなぁとか」
浜中「大丈夫だって。何とかなる」

ホントかよ。
浜中某の目論見では、ここでちまちまと中身を整理し、要らないものはこまめに売るとの
ことだった。
岡山では値のつかないものでも、東京なら引取手はあるだろうとの読みも有るらしい。
実際、彼の持っているゲームの中にはプレミアが付いて2万円まで値上がりしているものも
あるし、あながち見当違いという訳でも無さそうである。
と、いうことで私の下宿に新たな仲間が増えるコトとなった。
元々の同居人の谷川某と合わせて、男三人のむさ苦しい所帯である。
まあ、賑やかなのはいいことだ。
取りあえずはそう思うことにしよう。

徳田「ところで、あれから千と千尋の神隠しは見にいったんですか?」
浜中「もちろんだ。すでに5回を超えたぞ。また一緒に行こう」

すみません。勘弁して下さい。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓