雨谷の庵

[0160] まったりの近年的解釈 (2001/06/07)


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まったりに見る時代変遷とその限界。

そいつが初めて我々人類の前に姿を現したのは10年ほど前ではなかったろうか。
そいつの名は「まったり」。
例えばこういう具合に出現する。

 うおおおお。な、なんという素晴らしい味わいなのだぁ!
 まったりとしてそれでいてしつこくなく、舌先で転がる酸味とこりこりとした
 歯ざわりがお口の中で絶妙なデュエットを奏でているようだぁ!
 しかも食後に喉を吹きぬける、この高原の爽やかな風を思わせる微妙な香り。
 一体これは何だ!何だ!
 お、おおおお。そうかぁ!この香りの正体はイカスミかぁ!
 びばイカスミ、ぐれーとイカスミ。
 あああああ、イカスミのなんとも言えない控えめな活躍が私を花園に
 いざなって行くようだ。
 体が、体がみるみる溶けていく。身も心も天国に召されるのか!
 美味い、美味い、う・ま・い・ぞぉぉぉ!
 (ばい あじをふ)

おのれ「まったり」。
どういう意味なんだ「まったり」。
こういう時は辞書を引こう。
最近はWebでも辞書が公開されていたりするから便利になったものだ。

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[まったり]の大辞林第二版からの検索結果

まったり (副)スル
まろやかでこくのある味わいが、口中にゆったりと広がっていくさま。
 「〜(と)した味わい」

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なるほど、まったりの奴はどうやら味覚に関する用語である様子である。
「まろやかさ」と「こく」が「ゆったり」と「広がる」ような感触を
「まったり」と表現するものであるらしい。
まずは「まろやかさ」と「こく」を兼ね備えた食物を考えてみよう。

・ラーメンのスープ
・オムライス
・シチュー
・カレー
・牛丼

他にもあるのかも知れないが、まあ取りあえずこんなモンでいいだろう。
ところで、最近Webなどをふらふらしていると、時々目にする表現がある。
例えばこんな具合だ。

「今日は仕事もなく、まったりと一日を過ごしました」

出たな。まったり。
これを前述した辞書の意味で置換えると、ちょっとおかしなことになる。

「今日は仕事もなく、まろやかでこくのある味わいが、口中にゆったりと
 広がっていくような一日を過ごしました」

なんだなんだ。一体どんな一日だったんだ。
ちなみに、まったりをそれに類する食物で例えた表現に変換しても、
事態は一向に改善されない。

「今日は仕事もなく、ラーメンのスープのような一日を過ごしました」
「今日は仕事もなく、オムライスみたいな一日を過ごしました」
「今日は仕事もなく、シチューを彷彿とさせる一日を過ごしました」
「今日は仕事もなく、カレー的一日を過ごしました」
「今日は仕事もなく、牛丼な一日を過ごしました」

どういうことだカレー的一日。
羨ましいぞ牛丼な一日。

それはともかく。
どうやら「まったり」は以前の「まったり」ではなくなってしまった様子である。
かつてあじをふが連呼し全国津々浦々の少年たちの熱き魂を揺さぶったあの
「まったり」は過去のものとなっていたのだ。
どこかの言語学系人物による雑文の中で「言葉は動くものであり、乱れるもの
ではない」という説を拝見した事があるが、まさにその動きまくる現象が
この「まったり」にも発生してしまったとかそういうことなのかもしれない。
推察するに、まったりの近年的解釈は以下のようなものではないだろうか。

「何の気兼ねもなく、自分の好きな事をしながらゆっくりとくつろぐさま」

ここで見られる変換はこんな感じである。

 まろやかで --> 何の気兼ねもなく
 こくのある --> 自分の好きな事をする
 ゆっくりと --> ゆっくりと
 広がっていく --> くつろぐ

ううむ。自分でもなんだかこじつけ臭いが、なんとなく説得力があるので
良しとしよう。
まあ、細かいことは気にしてはいけない。
で、これに従って前述の文意を再構成すると以下のようになるのである。

「今日は仕事もなく、何の気兼ねもせず自分の好きな事をしながらゆっくりと
 くつろいだ一日を過ごしました」

おお、そうか。そんな一日を過ごして居たわけだな。納得である。
何気に、納得しているのは私だけかも知れないが、まあここは気にしないことにしよう。
ところで。
このように再定義された「まったり」、昔のあじをふの言葉にそのまま適用すると
どうなるのだろうか。やってみよう。

 うおおおお。な、なんという素晴らしい味わいなのだぁ!
 何の気兼ねもなく、自分の好きな事をしながらゆっくりとくつろいでいながらも
 それでいてしつこくなく、舌先で転がる酸味とこりこりとした
 歯ざわりがお口の中で絶妙なデュエットを奏でているようだぁ!
 しかも食後に喉を吹きぬける、この高原の爽やかな風を思わせる微妙な香り。
 一体これは何だ!何だ!
 お、おおおお。そうかぁ!この香りの正体はイカスミかぁ!
 びばイカスミ、ぐれーとイカスミ。
 あああああ、イカスミのなんとも言えない控えめな活躍が私を花園に
 いざなって行くようだ。
 体が、体がみるみる溶けていく。身も心も天国に召されるのか!
 美味い、美味い、う・ま・い・ぞぉぉぉ!
 (ばい あじをふ改)

...なんだか全然違和感無いし。
さすがはあじをふ。時代をすでに超越していたとかそういうことか。
恐るべしあじをふ。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓