雨谷の庵

[0093] 自動改札機内通過手順 (2000/06/28)


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本当は苦手なのです。

嗚呼、何たることであろうか。
私が停止してしまったのである。
私が停止してしまうのは恐ろしいことである。
もしかすると、とても恐ろしいかもしれないから注意が必要だ。
恐ろしいととても恐ろしいとの間に横たわる深く険しい溝の存在意義について
この席でトクトクと論じるにやぶさかではもちろんないが、そんなことを
しているととても恐ろしいととっても恐ろしいとの間の溝の存在意義についても
論じたり論じ合ったりしなければならない羽目になりそうな気がしてきたり
してこなかったりなので止めておく。どっちだ徳田。
この文章を読んだ賢明なる、いやもしかすると全然賢明でなかったりするかもしれない
読者貴兄淑女の方々なら結構お分かりかと思うのであるが、私は今動揺しているのだ。
停止してしまったり動揺してしまったり。
動いているんだか動いていないんだかはっきりしなさいと怒られそうな雰囲気を
ちょっぴり醸しているかもしれないところがポイントである。
何のポイントだ徳田。

とにかく嗚呼何たることであろうかなのだ。
私が停止してしまったのである。
これだけでは何のことやらさっぱりにして皆目の見当すら付けようが無いとの
熱い熱苦しいご指摘に応えて、少しばかりこの停止の状況を解説しよう。
何だか偉そうな物言いだな徳田。
それはともかく。
何しろ私は北区の途中であったのだ。いやいや、帰宅の途中であったのだ。
帰宅というのはアレである。帰ってしまうのだ。
帰るという行為は起点と着点、及びそれらを連結せしめるいくつかの構成要素で
もって定義付けられるという考え方に基づくならば、私は会社の所在地を
起点とし、私の自宅を着点とした場合の連結構成要素の途上に有ったと
断言できると言っても過言では無い。
件の連結構成要素の中でも特に私にとって鬼門的存在なるものは勿論のこと
ラッシュ時における山手線電車内に他ならないが、今はそれについて
語り尽くしているような場合ではない。
問題なのは自動改札機と世間で呼ばれている連結構成要素であったりするのである。
渡るばかりが鬼世間においては件の連結構成要素を苦手とする御仁が存在すると
聞き及んだことがあるが、私は特にそういった範疇には無い存在として
自身を今の今まで定義付けていたものである。
いや、実は結構得意だったりするのである自動改札機が。
自動改札機が得意であるなどということを殊更に自慢する気は毛頭無いが、
ついでと言ってもどうせなのでここでちょっとばかりその得意さ具合を
披露してやろうとか企んでいたりする。
タチ悪いな徳田。

まず自動改札機に臨むにあたってはその所在を正確に把握しておく必要がある。
これはボクシングや空手などで言うところの間合いというものに他ならない。
そう、自動改札機は格闘技であるのだ。
自動改札機に至るまでに人類が行なっておくべき動作には以下のようなものがある。

・背筋を伸ばす。
・乗車券の所在を思い起こす。
・乗車券の所在候補その1に右手を伸ばす。
・乗車券の所在候補その1の登録を抹消する。
・乗車券の所在候補その2に右手を伸ばす。
・乗車券の所在候補その2の登録を抹消する。
 (以下、乗車券の所在候補その6まで同様の処理を繰返す)
 ...
・乗車券の所在候補その7に右手を伸ばす。
・乗車券の所在候補その7を乗車券の所在として確定する。
・右手に乗車券を確保する。
・右手の手の平を天上に向け、右腰付近で水平に構える。

これらの一連の動作を淀み無く行なうことが可能になるまでには実に3年4ヶ月に
渡る日々の特訓が必要(当社比)であるが、それはこの際不問とする。
とにかく、上記の行為を淀み無く行うに十分な距離を確保するために、
自動改札機の所在地のについての正確な値が必要となるわけである。
さて、淀み無く自動改札機に到達した後、次に人類が行なうべき動作には
以下のようなものがある。

・構えた乗車券を自動改札機の乗車券差込口に挿入する。
・挿入と同時に右手を10cm上方に移動させる。
・自動改札機通路内を順方向に進行しつつ、右手の手の平を床に向ける。
・手首を90度まで曲げ、自動改札機の乗車券返却口付近に滞空させる。
・勢い良く飛び出てきた乗車券を捕獲する。
・手首のスナップを利かせて乗車券を乗車券返却口から抜き取る。
・乗車券を乗車券の元所在地に素早く格納する。
・乗車券の所在地を記憶に格納する。

これらの一連の動作を淀み無く行なうことが可能になるまでには実に3年4ヶ月に
渡る長く苦しい特殊訓練が必要(当社比)であるが、それはこの際不問とする。
達人の域に達した自動改札機の使い手は、上記をまるで何事も無かったかのように
行なうと言われている。
「達人の自動改札機はまるで一つの演舞のように見えた」と、ゲーテも賞賛する
程である。さすがゲーテ。

それはともかく。
日常ではこの自動改札機の段位保持者の一角としてつつがない日々を過ごしていた
私であるが、今日は少々事情が異なったとかそういうことなのである。
何しろ、私が停止してしまったのである。
具体的に説明するならば、自動改札機内通過手順第4項で停止したのである。
より簡略的な説明を用いるならば、乗車券が出てこなかったと言うことになる。
嗚呼、何たることであろうか。
これでは自動改札機内通過手順第5項を行なうことが出来ないではないか。
美しすぎてゲーテも吃驚とかいうこの自動改札機が、今日に限っては中断の
憂き目を余儀なくされてしまったのである。
これでは自動改札機の段位保持者としての私の面目は丸つぶれとかそういう事である。
しかも中断された自動改札機の構えは、何処と無く妙な振り付けの踊りの途中の
ように見えなくも無く、私と同様に帰宅途中の自動改札機段位保持者達の
侮蔑の眼差しを誘っているではないか。
無様である。無念である。
この私の受けた屈辱を、如何にして晴らすべきかについて、今後詳細に検討せねばなるまい。
...てゆ〜か、悔しがってないでさっさと駅員呼べよ徳田。
後ろはかなりつっかえてるぞ。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓