雨谷の庵

[0090] パンツ財産私有制 (2000/06/16)


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じゃあ、今日はパンツの話をしよう。

とにかく、私はパンツを三つしか持っていなかったのである。
以前はこうではなかった。
まずは小学生の頃のパンツを語らねばならない。
私には弟が二人いるのであるが、それは今も昔も変わらない事実とかいう奴である。
弟が二人居るからといって、三人兄弟であるとは限らないのではあるが、私の場合は
偶然にも三人兄弟である。
男三人。
良く産んだものであるな母ちゃん。
さて、兄弟がいる方にならなんとなく想像が付くのではないかと思うのであるが、
我々徳田三兄弟は衣服の類を共有の財産として取扱っていた。
衣服の類というのは、例えばセーターであったりズボンであったりTシャツであったり
とかいったようなもののことである。
そうなると親の方も心得たもので、衣服の類を購入する儀に及ぶ場合には、
同じ柄のものを色違いで三つ買い求めるなどして、兄弟の共有財産の充実ぶりに
不公平な出来事が起こらないような配慮をしていたものである。
さて、そうなれば当然、パンツも例外ではなかったりする。
パンツもまた、徳田家の三兄弟においては共有すべきものとして認識されていた。
しかもパンツである。パンツといえば、白であるブリーフである。
小学生が洒落た柄パンを履くわけもなく、パンツの種類は白のみ一種類であった。
色違いとかそういった小技が適用できない分野、それがパンツに他ならないのである。
となれば我々三兄弟にとって、誰がどのパンツを愛用しているかを判別することは、
非常な困難となってしまうわけである。

「これ、兄ちゃんのパンツかなぁ」
「いや、この黄色い染みはお前のではないか」
「え〜〜〜。違うよぉ」

などという会話を交わしていたかどうかについての記憶は定かでないが、まあそんな
感じで我々は原始共産制にも似た財産共有社会を維持していたわけである。
であるからして、私の小学生時代にはパンツは豊富であった。
三つしかないなどという非人間的非文化的な生活環境には無かったはずである。
まあ、自分の身に覚えのない黄色い染みを体育の着替えの際に級友に指摘されて
恥ずかしい思いをしたとか、そういった些細な出来事はあったかもしれないが。しくしく。

とにかく、私はパンツを三つしか持っていなかったのである。
なぜこのような事態になってしまったのであろうか。
思えば、それはブリーフからトランクスへの移行に一因があるのではないだろうか。
私が上記のような方針転換を行ったのは大学生の頃であったと記憶している。
つまり言いかえるならば、私は大学生の頃まではブリーフを履いていた事になる。
しかもそれは兄弟の共有財産であるところの白のブリーフに他ならない。
つまり言いかえるならば、私は大学生の頃まで、自分の身に覚えのない黄色い染みを
体育の着替えの際に級友に指摘されて恥ずかしい思いをしていたとか、そういった
ごくごく些細で人生に何の影響も無いはずのちょっとした出来事に出会ってしまって
いたかもしれないけれどそんなことはもう忘れてしまっているはずだから心の傷、
所謂処のトラウマになんてなっていないに違いないとかそういうことだ。しくしく。
まあそういった経緯もあったのか、とにかく私は大学生になってようやくブリーフから
トランクスへの移行を果たしたのである。
さして起伏のない平凡極まりない人生を志して日々精進を続けている私のような者に
とってみれば、まさに人生における大きな転換期の一つとして個人的な歴史の記念碑的
存在として記録に留められねばならない出来事である。
それはともかく私にとって、トランクスにはブリーフと異なるいくつかの特徴があった。

・締めつけ感が無くてゆったりとしている。
・それも関係してか、興奮しても股間がテントになり難い。
・風通しが良く蒸れ難い。
・ついでに白でなくても良い。
・だから色々な絵柄のものを購入可能である。

これらの特徴の中で、特に5番目のものは革命的な変化であった。
何しろ柄が豊富な種類の中から選択可能なのである。
いままでは黄色い染みの色味や形状、それと若干の臭いとでしか見分けることが
出来なかったパンツ個体間の差異を、色柄といういかにも明確な基準でもって
各自の自明の判断の結果として瞭然と区別できるようになったのである。
ここにおいて、我々徳田三兄弟におけるパンツを財産とみなした場合の原始共産体制は
崩壊への道を辿ることとなったのである。
まさに東西冷戦終結とか、そういった出来事にも匹敵する事変と断言せざるを得ない。

さて、冷戦の終結と共に徳田三兄弟は緩やかにパンツ財産私有制へと移行していく
わけであるが、ここにおいて一つの疑惑が浮上した。
どうやら、いままでの主なパンツ供給者は次男、三男であったのではないかという
のがそれである。
言ってみれば冷戦時代の負の遺産とかいう奴である。違うか。
すなわち、冷戦終結東西融和後のパンツ保有状況において、長男の保有数の伸びが
他者に対して著しく低かったとかそういう事である。
ここで議論が紛糾する。

「兄ちゃん、もしかして今までパンツ買ったことねえじゃろ」
「え?いや、そんなはずは」
「じゃ、なんでパンツが三枚から増えんのじゃ?」

このように、次男三男は長男が今までの20年近くに渡って、パンツを一枚も買うことなく、
彼等をパンツ的に搾取し続けていたのではないかという疑義を提起したとか
そういうことである。
長男が、長の矜持にかけてこれを断固否定したことはいうまでもない。しくしく。

ま、ということでそのちょっとダメダメな長男は最近になるまでその三枚のパンツを
履き続けていたとかそういうことである。
しかしそのうちの一枚は昨年の七月に寿命を迎えることとなった。
何故かは知らないが、オケツの部分に穴が開いたのである。いやん。
ま、パンツはズボンの下に履くものであるからズボンを脱がない限りは誰かの目に
触れるものではないし、もし触れるとすれば愛しの彼女と一夜をともにしたりとかそういう
状況とかだがそんな嬉しい場面には当分遭遇しそうにもないし、もし触れるとすれば
宴会で飲み過ぎてパンツ一丁で踊ったりとかそういう状況だがそのときにはパンツの
オケツに穴が開いているのはウケ狙いとしては超オッケーなので問題ないし、
まあとにかくそんな感じで当分の間は穴の開いたパンツをそのまま履き続けていたりもした。
その後、競馬仲間の桧山某の宅に遊びに行った時にパンツを一枚貰ってしまったので、
その寿命の切れたパンツはめでたく廃棄処分となったのであるが、それはまた別の
話である。
しかし、今年の六月になって、またもや冷戦終結の勇者が寿命を迎えてしまった。
何故かはさっぱり分からないのであるが、オケツの部分に穴が開いたのである。いやん。
ここに及んで、私はとうとう新規にパンツを購入する決意をしたのである。
歴戦の勇者達よさようなら、戦争を知らない世代よこんにちは。
もうすぐ21世紀だしな。パンツを一枚買ってみるというのも一興であろう。
...って、一枚か徳田。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓