雨谷の庵

[0080] 孤高の人かぬか漬け (2000/05/11)


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ぬか漬けを始めてみた。

何しろぬか漬けである。
ぬかに、漬けてしまうのである。
ぬかを漬けるわけではない。
そこのところを間違えてしまうと、なにやら訳の分からない誤解を
招いてしまったりするので注意が必要だ。
世界中の何処を探したところで、ぬかのお漬物をむしゃむしゃと喰らうような
輩は存在しないはずである。
...もしかすると存在するのか。
是非とも存在して欲しくないものであるぬかのお漬物。何卒。

何しろぬか漬けである。
ぬかに、漬けてしまうのである。
主に漬けるのは野菜である。
茄子や胡瓜などがその漬けてしまうところの代表的な野菜と言えよう。
モノの本を紐解くと、人参やセロリなどといった輩も、ぬか漬けには適している
とのことであった。
どちらかというと色味の濃い野菜、世に言うところの緑黄色な野菜どもが
ぬかに漬けてしまうところの物体として奨励されているように見受けた。
白菜は余りぬかには漬けないものであるらしい。
どちらかというと浅漬けとして頻繁に漬けられてしまうものなのかもしれない。
韓国漬けでも白菜は主流のものであるような気がする。
ぬか漬けが例外なのであるかもしれない。
仲間外れかぬか漬け。孤高の人かぬか漬け。友達居ないのかぬか漬け。

何しろぬか漬けである。
ぬかに、漬けてしまうのである。
何故ぬかに漬けるのかと問われれば、そこにぬかがあるからとでも
答えねばならぬのであろうか。
とにかく、最初にぬか漬けを考えた処の人類はかなりの駄目人間であったに違いない。
何しろぬかである。
それをお味噌状に湿らせ、適温で発酵させてあるのである。
色は茶色とも黄色ともつかないし、臭いなどはなにやら不穏な雰囲気に満ち満ちていたりする。
所謂処の、大きな排泄物とかいうものに酷似していると考えられなくも無い。
不浄である。汚らわしい。恥を知れとかいう奴だ。
これに野菜を漬けるなどということを考えつくのは、相当の暇人である。
「小人閑居して不善を為す」と言うではないか。すなわち暇人は不善の人である。
不善な人がすべからく駄目人間であるかと問われれば、そうとは限らぬと答えねばならないが、
しかし不善の人が己の所有物であるところの野菜をぬかに漬けてみたとすれば、
それは駄目人間に他ならないのではないかという学説は、至極もっともであると
思えなくもないのである。
己の所有物である野菜を大きな排泄物とかに漬けてしまうのは、駄目人間ではなく
基地外の方々であるのでこの際論議の対象にはしないことにしたい。
しないで下さい。しちゃイヤん。

何しろぬか漬けである。
ぬかに漬けてしまうのである。
そう言えば私が何故ぬか漬けを始めたのかをまだ書き記していなかったように思うので、
ここで簡単に説明したい。
小さい頃、実家でぬか漬けを作っていたような気がするのであるが、それがどうも
物凄く印象に残っていたりするのである。
美味しかったのか美味しくなかったのかは、例のごとく良く覚えていなかったり
するのであるが、まあとにかく私的には「家庭料理にはぬか漬けは付きもの」などという
良く考えると実は訳の分からない思い込みがあったりするのである。
もちろんプロポーズの台詞も、家庭料理の王様であるところのぬか漬けさえあれば、
決まったも同然である。
「毎日朝晩、私のぬか床を掻き混ぜてくれないか」
これである。
そうそう、混ぜる時の注意事項も、プロポーズには忘れてはイケナイことのひとつであろう。
「混ぜる時は容器の底からグイグイと行い、全体に程良く空気が混ざるように30回ほど...」
ああ、逃げないで下さいスミマセンもう言いませんから。しくしく。
まあそれはともかく。
以上のような理由から、、完全自炊に移行してから約3ヶ月、
隙あらばぬか漬けを始めてやろうと、機会を覗っていたとかそういう事だったのである。
決して、ゴマッキーの仕返しに大友某にぬか漬けを喰らわせてやろうなどという
卑劣な理由から始めたのでないことは、今ここで断言しておきたい。
分かったか大友某。だから、仕返しの仕返しは遠慮したまへ。何卒。

何しろぬか漬けである。
ぬかに漬けてしまうのである。
ぬかに漬けるからこそのぬか漬けであって、ぬかに漬けなければぬか漬けではないと、
私は切に主張する者である。
しかしながら、世の中にはぬかに漬けてもいないのにぬか漬けと称する食物が
存在することを、最近になって私は耳にする機会を得た。

ぷるるるる....ガチャ。
「もしもし徳田です。あ、お母さん?訊きたいことがあるんじゃけど」
「何?」
「今度、ウチでぬか漬けを始めたんじゃけぇどな、手入れの仕方がよぅ分からんのんじゃ」
「ぬか漬けぇ?お前、そんな顔に似合わんことぉしとるんか」
「顔は関係ぇねぇじゃろ。とりあえず、朝晩掻き混ぜ取るんじゃけどな、それでえぇんかなぁ」
「....知らん」
「は?」
「徳田家では、代々ぬか漬けは作らんことにしとるんじゃ。じゃけぇ、知らん」
「ええ!でも、確か昔...」
「それはぬか漬けはぬか漬けでも、パン床で作ったぬか漬けじゃろう」

それは初耳です母上。
どうやら私の母は、パンの屑でこしらえたパン床なる物体に胡瓜や茄子を漬け込み、
それをぬか漬けと称して幼き日の私の食卓に出していたようである。
ぬか床を用いた場合と異なり、パン床は手入れや保存が簡単で、無精者の母には
ぴったりだとかそういう事であったらしい。
しかしその手入れの簡単なはずのパン床版ぬか漬けですら、母は1年ほどで
止めてしまったと言う。
代々の無精者ぞろいか徳田家。
というか、私の小さい頃の記憶とやらは一体どういうことなのか。
家庭料理の王様ではなかったのかぬか漬け。
プロポーズもこれでばっちりとかそういう話はどうしてくれるのだぬか漬け。
畜生、やっぱり仕返しに使うしかないのかぬか漬け。
ということで、そのうちぬか漬けを持っていくので、覚悟しとけよ大友某。
喰らわしてやるからな。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓