雨谷の庵

[0074] チョコは入れてない (2000/04/24)
※こっそり雑文祭


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大友某とは、幼少よりの仲であったりする。

切っても切れない縁にはいくつかの種類があるが、なかでも悪名高いのは
腐れ縁とかいうものではないかと思う訳である。
私の場合はこいつの事だ。

「よう徳田。元気にしているか。遊びに来てやったぞ感謝しろ」

なにやらやわらかいティッシュペーパーのようなものを片手に、
大友某がわが庵を訪れたのは、昨日の日曜日のことであった。

大友某と私が初めて出会ったのは、幼きある日の岡山での出来事である。
家が近所であったというのが、私の不幸の始まりであったのかもしれない。
所謂近所のお友達。
そういう余りにも日常的な出会いのなかに、腐れ縁というものは隠れ
潜んでいるものなのである。読者諸兄も是非とも用心されたし。
それはともかく。
件の腐れ縁であるところの大友某は、数々の奇癖を有することで私の中で有名である。

「何を言うか徳田。奇癖ならお前も負けていないぞ安心しろ」

こらこら。勝手に人の思考の中に入って来るな大友某。
とにもかくにも、彼の奇癖の数々については語るに余るが、中でも
特筆すべきはその料理好きという点であろうか。
そうなのである。こいつは料理を作るのが何故か好きなのだ。
思えば、小さな頃から数々の怪しげな料理を作ったものである。

例えば、アブラーメン。
これは要するにラーメンである。
しかしただラーメンを作ったのでは面白くないとでも思ったのであろうか、
幼き日の大友某が言った台詞がこれだ。

「そうだ徳田。水の代わりに油で茹でてみよう」

ラーメンは熱いお湯で茹でるから美味いのである。
ならば、その熱さを強化してやれば更に美味しいこと間違いなしである。
しかし残念ながら水の沸点は100度位である。
ところが油は250度にまで加熱することが可能である。
すなわち、油でラーメンを茹でることで、我々のラーメンは更なる進化を遂げ、
アブラーメンなる新たな食品として生まれ変わるに違いない。
我々は水の代わりにサラダ油を鍋一杯に注ぎ、ガスコンロに火を入れた次第である。
結果は推して知るべし。
こんがりと黒く揚ったインスタントラーメンの惨めな姿と、そこら中に
飛び散ったサラダ油で火傷しそうになった我々、そして我々の暴挙をたしなめる
両親の姿は、今でもセピア色の思い出だったりするわけである。

例えば、ケチャニアン。
これは要するにホットケーキである。
しかしただホットケーキを作ったのでは面白くないとでも思ったのであろうか、
幼き日の大友某が言った台詞がこれだ。

「そうだ徳田。ケチャップを入れてみよう」

ケチャップとはこれすなわちトマトの煮込みソースである。
これに類似するものとしてはイチゴを砂糖で煮込んだジャムなるものを挙げることが
出来るに違いない。
ホットケーキとジャム。これはまさしくゴールデンなほどに相応しき取り合わせである。
ならば、その類縁たるケチャップもホットケーキに相応しい食材に違いない。
しかしながら周囲を見渡すに、ケチャップとホットケーキを融合させた食品は
未だ出現していない様子である。
すなわちこれは我々の発想力のみが具現化しうる世紀の大発明であり、
我々は世界初の試みとしてこれを完遂せむことを使命とすべきである。
我々はこのケチャップ入りホットケーキを「ケチャニアン」と名づけ、
ここにその誕生を宣言する者である。
結果は推して知るべし。
何とも妙な味のする、ホットケーキともお好み焼きともつかない異様な食物の前に、
我々が挫折の憂き目を見たことは言うまでも無い。

「懐かしい思い出と言いたまへ徳田君。我々は若かったのだよ」

私の目の前で飄々とそう言い放つ大友某は、あの頃と少しも変わっていないようである。
私も基本的には自炊によって日々の食事を賄っているのであるが、大友某は
更にその上をいっていたりする。
何しろこいつは弁当も自分で作っているのだ。
朝6時から起き出して、せかせかと手弁当を作る30前の独身男性。
一種異様な光景ではある。

「何を言うか徳田。弁当など朝晩の食事の残りもので済む話だ。ちっとも面倒な話ではない」

とかなんとか言いながら、手を抜くためにこんにゃくゼリーを入れていたりするらしいので、
こいつだけは油断がならない。
ご飯と味噌汁とこんにゃくゼリー。
どこのどいつがそんな昼飯を食べたがるものか。

大学を卒業した私は大阪のあたりに就職したので、この大友某とは一時期縁が
切れていたりもした。
私にとって、大阪とは幼馴染とは縁の無い土地として未だに記憶に新しい。
しかしここ東京に越してきてまた事情が変わった。
私が引っ越してくる1ヶ月ほど前に、大友某もまた東京に引っ越して来ていたのだ。
腐れ縁の強さというものを、この時ほど強く感じたことは無い。

ところで先ほどから気になっていたのであるが大友某。その紙の包みは何だ。

「ああこれか」

大友某は、来訪時から持っていた紙の包みを開いた。
包みの中から、なにやら手のひら大の茶色い物体が現れた。
ちょっと焦げ臭いな。何だこれは。

「これはクッキーだ。お前に食わせてやろうと思ってな。ありがたいか」

ありがたい訳無いだろふざけんな。

「バターが無かったので代わりに胡麻油で作ってみたのだ。
 砂糖もなかったから代わりに塩を入れておいた」

入れるなそんなもの。っていうか、バター無いんなら作るなよ。

「茶色いのはなんでだろうな。チョコは入れてないんだが」

焦げてるんだよ馬鹿野郎。

「俺はこれをゴマッキーと名づけた。世界初の胡麻油クッキーだ。
 甘さ控えめのダイエット食品とかいうやつだ。どうだ美味そうだろう」

恐るべしゴマッキー。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓