雨谷の庵

[0050] 母の立てる旅行計画 (2000/02/04)


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東京を爆走してみた。ちなみに暴走ではない。

雪のせいで高速道路の路面は滑りやすくなっていたりもする。
何しろ真冬の長野道である。路面に注意というやつだ。
ついでに言えば、私は実に3年ぶりくらいに車を運転していたりするのである。
ハンドルさばきも覚束ないのは当然なのである。
「もっとブレーキは早めに踏まにゃあおえまぁが」
助手席でブツブツと岡山弁で文句を言っているのは母である。
ちなみに後部座席で熟睡しているのは祖母である。
なんだなんだ。どうしてこんな事になったのだ。

話を振り返ると、事の始まりは祖母の一言であった。
「あんたの住むところを、一度はこの目ぇで見とかにゃおえんのぅ」
どうも私が東京とかいう見知らぬ土地で一人暮しをすることに不安を感じている
様子である。
この言葉に母が便乗したりするので性質が悪い。
「長野の温泉ゆぅのもええなぁ」
おいおい何故にそこで長野が話題として出てくるのであるか。母よ。
こうなると後はなし崩しである。
私は元々新幹線で東京に引き返すつもりであったが、予定は急遽変更の儀と
あいなってしまったのである。

ということで、私は今眠い目をこすりこすり車を運転しているのである。
なにしろ朝の4時にたたき起こされたのだ。眠いのは当然である。
聞くと、自動車で岡山から東京までは8時間くらいかかるとの事である。
母と祖母はそこからさらに長野に向かい、温泉で一泊しようという魂胆なのだそうである。
午前5時に出発したとして、東京着予定時刻は午後1時。
長野には夕方にはたどり着けるだろうという目論見である。
無茶な計画なのではないかと、私が少しばかり不安に思ってしまうのは、
無理からぬコトであろう。

だいたい母の立てる旅行計画は、毎度毎度無茶苦茶なのだ。
小さいころに連れて行かれた大台ケ原。
視界0距離的な霧の中での強行軍がたたって、私は次の日に寝こんだ。
中学生になるかならないかのころに連れて行かれた尾瀬。
私は道に迷い、一人きりで夕闇の森の中をさ迷った。
何度か連れて行かれた大山/蒜山。
雪の中で凍えそうになったことや、崖から落ちそうになったことも数知れずである。

「ほれほれ、車間距離が詰まりすぎじゃ。もっと開けにゃおえまぁが」
その母は人の気も知らず、いちいち私の運転に文句をつけてくる。
うるさい、こちとら眠気と闘いながら慣れないコトをやっておるのだ。
誉められはしても、糾弾されねばならぬ覚えは一切無い。
・・・などとは心の中で思っていても口に出さぬのが平凡人たる証か徳田。
それにしても何故に、母は運転しないのか。疑問だ。
ちなみに祖母は熟睡を通り越して爆睡体制に突入した模様である。

そうこうしている内に、ようやく東京都内にたどり着いた。
渋滞している。もうすんげぇ渋滞。歩いた方が速い。
これが噂に聞く首都高速駐車場かと、母とつまらぬ雑談などをしていたその時であった。
バルン、バルバルバル・・・
中央分離帯を挟んで向かいの対向車線で、突然けたたましいエンジン音がこだまし始めた。
なんだなんだ、なんなんだ。
渋滞ののろのろ運転で暇だったせいもあってか、私はその光景に目を奪われてしまった。
それはまさしく、装飾過多な自動二輪車での迷惑運転を愛好する方々の集団走行現場であった。
夜露死苦とか死煮沙羅背とか魅奈醐露刺とかいう、アレである。
人、これを称して暴走族とか呼ぶ。
その、装飾過多な自動二輪車での迷惑運転を愛好する方々は奇声を発しながら対向車線を
長野に向かって走行中なのであった。
ちなみに、お供に警察の白黒車を従えているところがポイントか。
母も、その光景に魅入っている様子であった。
「・・・あの人ら、暇なんじゃろうなぁ」
いや、そういう問題ではないと思うぞ。母よ。
だいたい、貴方も今日は仕事をサボって旅行なんぞしておるではないかこの暇人め。
・・・などとは心の中で思っていても口に出さぬのが平凡人たる証か徳田。
いえ、その単に小心者なだけですハイ。

結局その日はそれ以外にさしたる出来事も無く、無事に私の下宿にたどり着くことができた。
少し道に迷ったので、着いたのは午後3時であった。
「今から長野へ行ったら、夜遅ぅなるがな。お前のせいじゃ」
道に迷ったのは別に私のせいではなく、東京の道が若干複雑であったりしたためであるので、
気にしてはいけない母よ。
とか言い訳をしてみても、母には通じないのであった。
相変わらず岡山弁でブツブツと文句を言いながらも、母は長野へと車を向けたのであった。
ちなみに祖母は相変わらず死んだように眠っている。本当に死んでいなければ良いが。

その日の夜11時。長野に着いた母から電話があったのはまた別の話。
道に迷うなよ。母。
げに血縁とはこういったものである。

雨谷の庵は今日も雨。
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管理者:徳田雨窓